世界の藤田真央、CD「72プレリュード」昨秋リリース ザルツブルクなど今年も活躍続く
■秘密を惜しげもなく
香港フィルではイタリア出身の指揮者、ダニエレ・ガッティのもとでモーツァルトのピアノ協奏曲第23番を弾いた。
「ガッティはスケールが大きく、こんな表現ができるものなのかと驚かされました。20代の指揮者とオーケストラが共有できるものは少なく、年を取れば音楽や人生観など分かち合うものが増えていくなどと話してくれました。私は全力で弾きましたが、私とガッティの間には壁が何層もあるような感じでした。私が表現できることはまだ少ないのです。ガッティは60年かけて得た秘密を惜しげもなく教えてくれたのです。こんな話をしてくれる指揮者は初めてでした。感謝しかありません」と話した。
2月はケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団とともに来日、5月にはNHK交響楽団に初登場、ロマン派の流れをくむ作曲家ドホナーニの作品を演奏する。夏は毎年恒例のスイスのヴェルビエ音楽祭、8月にハーゲンカルテットとともにザルツブルク音楽祭に初出演と忙しい日程が続く。能登を訪れた際、疲労のため楽屋で寝てしまった話を教えてくれた。
■今後は仕事を吟味
「大変そうだと仕事を断ることもできますが、やってみないと分かりません。たとえば学生時代はモーツァルトが自分に合っているとは思いませんでした。能登の前はパリ、ニューヨークと演奏が続き、時差ぼけにも苦労しました。私が演奏する音楽が癒やしになればと思い仕事をしましたが、迷惑をかけることになってはいけません。リサイタルが終わると食事をとり、メールの返事を書かなくちゃいけませんし、翌日の移動のためにかばんのパッキングをする。何か追われている感じになっています。どの演奏会もクオリティーは悪くはありませんが、体に疲れのない状態なら違う演奏ができた、もっとよい演奏ができたかもしれません。若いと思っていましたが、10代や20代の前半とは違うのです。これからは仕事を吟味しようと思っています。でも私の先生のキリル・ゲルシュタインは世界で最も忙しいピアニストなんですけどね」と笑った。(江原和雄)