オールドメディア、なぜ「蚊帳の外」?◆転換点迎えた「選挙とSNS」【#取材班インタビュー:山口真一さん】
◇「蚊帳の外」の既存メディア、理由は
―今年の選挙では、既存メディアの存在感の薄さも気になりました。 かつては新聞やテレビといった既存メディアが情報源としての独占的地位を占めていましたが、現在はSNSや動画共有サービス、ネットメディアなども有権者が見比べて判断できる時代になりました。こうした変化を「既存メディアの敗北」とみる人もいますが、単に選択肢が広がったことによる自然な流れなのだと思います。 SNSの極端な言説が選挙に影響する時代だからこそ、既存メディアの役割はむしろ増しています。情報の真偽を迅速にファクトチェックして、それを番組や新聞紙面だけではなくネット上でも適切に配信してほしい。このネット上への発信に関して、既存メディアの工夫はかなり、足りていないのではないでしょうか。 ―さまざまな情報があふれるSNSに比べて「既存メディアは何も報じていない」という声も高まっています。 既存メディアがSNSで上手に情報発信できていないために、普段SNSしか見ない人には「彼らは選挙について何も報じない」と受け止められています。例えばX(旧ツイッター)でテレビ報道の「切り抜き動画」が拡散されたのを見て、「なぜこれをテレビは報じないんだ」と怒っている人をよく見掛けます。 この例のように、SNS上の情報も元は既存メディアの取材結果の転載であることが少なくないのですが、それが実感されていません。既存メディアには、ビジネスモデルそのものの抜本的な改革とネット戦略の見直しによって、SNS上でもしっかりと情報を伝えていくことが求められていると思います。 ◇SNSにできた「空白地帯」 ―SNSでは既存メディアよりも、個人のインフルエンサーが影響力を持つようになりました。 例えばXには、個人で200万人以上のフォロワーを持つインフルエンサーもいます。やっていることは単純で、ある出来事を箇条書きで要約して、根拠となる画像を数枚添付しているだけ。こうしたことを既存メディアができていないから、SNS上に「情報の空白地帯」ができてしまい、そこを巧みに攻略するインフルエンサーが代わりに力を持つわけですね。 ―SNSと選挙結果が結びつく時代に、有権者や政治家、そして既存メディアにはどんなことが求められますか。 まず、有権者は対立構図や怒りの感情に惑わされず、いろいろな情報源で候補者ごとの政策を見比べて、自分で考えることがとても大事だと思います。政治家側も、SNSで支持を集めようとして極端な言論や政策ばかりを打ち出していくことがないようにしてほしい。 XやInstagram、YouTubeといったプラットフォームにはそれぞれ別の文化があり、効果的な伝え方は異なります。既存メディアにはそれをしっかり理解し、正しい情報を広く発信していくことが求められている…というよりも、本当はずっと前から求められていたのに、いまだにできていない。その影響がようやく選挙結果に現れるようになったのが、2024年の選挙だったと言えるのではないでしょうか。 ◇◇◇ 山口真一(やまぐち・しんいち)国際大グローバル・コミュニケーション・センター准教授 1986年生まれ。慶応大経済学研究科で博士号(経済学)を取得。2020年より現職。主な研究分野は、社会情報学、情報経済論など。「AI戦略会議」など複数の政府有識者会議委員を務める。主な著作に「ソーシャルメディア解体全書」(勁草書房)