「人気が出なかった」タイの魚市場、“日本の街”にチェンジでランドマークに成長
「まるで日本」と思える場所が、タイの首都バンコクから車で南東へ1時間半ほどのところにある。タイ湾に面したチョンブリー県の「バンセーン魚市場」。飲食店などを集めた観光施設で、建物などは昭和の日本風。店には日本語の看板が並び“駅”などもある。タイには日本の街や店を模した施設が多いが、その中でもこの魚市場は屈指のスケールだ。地元の人々も多く訪れ、タイ人の日本好きの一端を示している。(バンコク・稲田二郎) 【写真】敷地内には“鉄道駅”や信号機、懐かしい日本の公衆電話もある 大阪・道頓堀の「グリコサイン」に公衆電話ボックス、信号機、東京・渋谷のハチ公像などもある。日本愛にあふれたこの市場ができたのはわずか3年前、2021年11月だった。 手がけたのは、調味料「ナンプラー(魚しょう)」を製造する会社の3代目ジョーさん(53)だ。約90年続く老舗で、ジョーさんの訪日歴は10歳の時から13回というから相当の日本通。「新事業として海鮮市場を開こうと思いました。東京の築地市場の雰囲気が大好きだったので、モデルにしました」 3年前、約8千平方メートルに飲食店などテナント数十店でオープンした。当時、入り口付近を日本風にしただけで中はタイの市場だった。「ありふれた施設で人気が出なかったですね」 新型コロナウイルス禍もあって客が減り、出ていくテナントも増えた。ただ、商品が飛ぶように売れ続けた店が一つだけあった。タコなどをプレスして焼く「すごいセンベイ」。客の動向をよく観察すると、日本の食べ物の需要が高く、開業半年後から本格的に“日本の街”にチェンジした。 たこ焼き、たい焼き、クレープ、焼き肉…。日本にこだわり「テナントには必ず日本語の看板を設置してもらっています」。店舗関係者は日本語がよく分からないため、翻訳サイトを使って看板を制作する。言葉の間違いもあるが「雰囲気があればね、大丈夫(マイペンライ)」と笑う。 ネットで調べた日本の画像を基に店などを増築し、看板など日本の中古品も買い集め、細部までまねをした。新鮮な魚介類をその場で調理するなど、料理の提供方法も工夫。着物レンタルや居酒屋などを含めテナントは200店以上まで増え、敷地も2万4千平方メートルに拡大した。交流サイト(SNS)でうわさが広まり、週末は1日4千~5千人、イベント時には1万人が訪れる地域のランドマークに成長した。 カップルで訪れていた地元の男性会社員ポムさん(31)は「日本には行ったことがないけど、アニメは見ました。日本はきれいなイメージで、この施設はとても気に入っています」。友人と訪れた女性会社員イープさん(23)は「日本の店はかわいい感じ。たこ焼きが好きで、来年は大阪に行きます」と話した。 ジョーさんは言う。「日本人は外国人に愛想がいい。治安もよく、犯罪に気を付けなければならない欧米とは違う。料理や観光地も素晴らしく、居心地がいいんです」。ジョーさんは海外旅行を考えるとき、今でも日本を一番の候補にしている。「たぶん多くのタイ人がそうです」。ジョーさんは今年の年末、別の場所に最近の日本建築を集めたナイトマーケットをオープンさせる予定で、今後の経営にも自信を持っている。「たぶん、マイペンライ!」