全国12県ではたった1人…視覚障害者を支える「歩行訓練士」が不足 長い指導待ち2~5年のケースも 自治体が対策検討
目の見えない人や見えにくい人に白杖(はくじょう)の使い方や点字の読み方を教える「歩行訓練士」が全国で不足している。島根県で実動するのは3人だけで、訓練を受けるのを2~5年待つ人がいる。中国地方の他県も同様に少ない。リハビリテーション訓練を委託する島根県は、委託費の増額などスムーズに訓練を受けられる支援策を検討する。 【動画】視覚障害者のための「歩行訓練士」不足 業務も多忙
「1年待ちで受けられて運が良かった」
出雲市の自営業藤原菊枝さん(59)は、白杖を使う訓練を2022年から1年半受け、外出が増えた。ガイドヘルパーと一緒に出かけていたが「今は自分の好きなタイミングで出られる」と喜ぶ。 小学生で視力を失い、12歳で難病の網膜色素変性症と診断された。40代で白杖を使い始めたが独学で勘に頼っていた。指導を受け、階段への恐怖が大きく減った。「訓練で生活は変わる。私は1年待ちで受けられて運が良かった。訓練士の仕事を広く知ってほしい」と願う。
歩行訓練で最長2年半待ち、点字訓練は5年近く
訓練を担うのは、県から委託を受ける2施設。松江市の社会福祉法人ライトハウスライブラリーは訓練士が2人いるが、歩行訓練で3人が最長2年半待ち、点字訓練で4人が最長5年近く待つ。 要因は仕事の多さにある。訓練士は年500件の対面と電話での相談に加え、図書を貸す仕事や啓発事業を担う。庄司健さん(50)は「優先度の高い困りごとの相談など対応するべきことが多い。どうしても訓練にしわ寄せがいく」と説明する。 浜田市の県西部視聴覚障害者情報センターの訓練士は1人で、歩行訓練の待ちは事情により1~2カ月が9人、1~2年が2人。5年前は訓練士が2人いたが定年退職して補充できずにいる。
全国93機関に239人が所属
日本ライトハウス(大阪市)によると、訓練士になるには、全国2カ所にある施設のどちらかに平日毎日通って通常で2年、歩行中心に限定して学んでも半年かかる。 2023年度の調査では、訓練士は歩行訓練をする全国93機関に239人が所属。中国地方では広島4人、山口3人、岡山2人、鳥取1人となっている。訓練士が1人の県は全国に12で「少人数で多岐にわたる仕事をしているのが実態。訓練を安定して提供するのが課題」と指摘する。 島根県障がい福祉課は、視覚障害者が希望通り訓練を受けられるのが理想と説明。訓練する職員の時間を増やす体制づくりを支援したいとする。丸山達也知事も来年度予算で委託費の見直しを検討する考えを示している。 ◆歩行訓練士 視覚障害者生活訓練等指導者の通称。国家資格ではなく、厚生労働省の直轄や委託の施設で必要な課程を修了した人を指す。歩行に限らず、点字やITを使ったコミュニケーション、食事や掃除など日常生活の動作を教える。
中国新聞社