ヘンリー・ムーディーが語る、若き大器がメンタルヘルスとノスタルジーを赤裸々に歌う理由
SUMMER SONIC 2024では、過去のサマーソニックと同様に多くの新人・若手ミュージシャンが日本での初ライブを披露してくれたが、ロンドン郊外のギルドフォード出身のヘンリー・ムーディー(henry moodie)も然り。2022年にデビューし、この2年間にシングルを積み重ねて着々とファンを増やしてきた、20歳の将来有望な英国人シンガー・ソングライターである。10代前半の頃、まずはカバーソングを発表することから活動を始めているが、今の人気を支えるのは、彼が作るメロディックでセンシティブなベッドルーム・ポップのクオリティであり、自分に正直で、他者にどこまでも優しい目を向ける、リリシストとしてのスタンスも聞き手を惹きつけてやまない。東京会場でのパフォーマンス直後にインタビューに応じてくれたヘンリーに、そんなソングライターとしての自分のモチベーションやこだわりを語ってもらった。 【写真】ヘンリー・ムーディー サマソニ撮り下ろし
テイラー・スウィフト、コナン・グレイへの共感
―初めての日本でのライブ・パフォーマンスはいかかでしたか? ヘンリー:オーディエンスが本当に素晴らしかった! ずっと手拍子を送ってくれて、みんな笑顔で。そもそも僕は何年も前から両親に、日本に行きたい! 東京や大阪に行きたい!と言ってたから、ようやく来ることができてうれしくてしょうがないよ。 ―「pick up the phone」を歌った時には、ひと際大きな反響がありましたね。 ヘンリー:辛い状況にある人たちに宛てて書いた曲なんだけど、実はあの曲が一番ヒットした国って、日本なんだ。ソングライティングは僕自身のメンタルヘルスにすごくプラスになっているから、ほかの人が聞いてモチベーションを得られるような曲を書きたいなと思っていて。そういう意味で、多くの人の心に響いたことはすごくうれしいし、だからこそさっきも曲の途中で「構うもんか!」と思って、ステージから降りてオーディエンスに囲まれながら歌ったんだよ。 ―少し基本的なことを伺いたいんですが、まずはあなたが曲作りを始めた経緯を教えて下さい。 ヘンリー:そうだな、僕の母は心理セラピストで父は医師だし、家族に特に音楽的な才能を持っている人はいない。みんな音楽を愛してはいるけどね。だから全ては僕の内側から湧き出たものなんだろうね。ただ、セラピストであるがゆえに母からは常に、自分のエモーションをオープンに表現するべきだと促されてきたし、僕にとっては、自分の身に起きていることを整理する手段のひとつがソングライティングなんだと思う。セラピーみたいなもので、辛いことを乗り越えるためにやっているんだろうね。子どもの頃から曲を書いていて、12~13歳の時には、プロデューサーたちとセッションをしてソングライティング力を鍛えるために、電車でロンドンに通っていた時期がある。もちろん、歌うことやパフォーマンスをすることも大好きなんだけど。 ―その後、音楽の専門学校であるBIMMでソングライティングのコースを専攻したそうですね。学校で学んだことは、実際にプロとして活動するにあたって役立ちましたか? ヘンリー:そうだな……ソングライティングって教えるのが非常に難しいものなんだよね。僕自身、主にスタジオでの実際の作業を通じてソングライティングを学んだと思っているんだけど、BIMMでは音楽作りに関わる物事の成り立ちや手順を勉強できたし、ほかの生徒との交流を通じて得たことも多い。それから音楽ビジネスの授業があって、あれはすごく役立った。契約に関することとか、全アーティストが学ぶべきだと思うよ。特に若くてナイーブだと、「レコード会社と契約できるなんてすごい!」と言って署名をしちゃって、とんでもない条件が付記されていたなんてことが起きるから。 ―では、「この人の音楽を聴いていなかったら今の自分はない」と思うアーティストは? ヘンリー:テイラー・スウィフトだね。彼女のアルバムの1枚1枚が、僕の人生の異なる時期に大きな助けになった。中学に通い始めるにあたって、自分を奮い立たせてくれるものを必要としていた僕に力をくれたのが『Rreputation』だったし、『Ffolklore』はパンデミック中の僕を支えてくれたし。とにかく、自分の人生の異なるフェーズで起きていたことと見事に呼応し、フィーリングを代弁するアルバムを作ってくれてきた。彼女がいたからこそ音楽にのめり込んだとも言えるね。ほかにも大勢の人がテイラーに惹かれる理由は恐らく、彼女が作るのはキャッチーなポップソングでありながら決してシンプルではなく、逆にものすごく複雑で、特定のフィーリングを的確に捉えているからなんだと思う。現時点で、あらゆる種類のフィーリングに対応する曲があるんじゃないかな。しかも偉大なソングライターであるだけでなくパフォーマーとしても素晴らしくて、The Eras Tourでは3時間半にわたってステージに立ち、セクションごとに衣装や振り付けを変えて、ギターもピアノも弾いて、全てをこなせるオールラウンドなアーティストだよね。そこで見せ付けたように、どのアルバムにもそれぞれに一貫したテイラーならではのサウンドが確立されているし、そうやって長く安定したキャリアを築いているという点にも惹かれるな。 ―曲を書くモチベーションは、口では直接言えないことを歌にして伝えるとか、日記代わりに曲を書くとか、様々です。あなたの場合はいかかでしょう? ヘンリー:コンフェッショナル、日記的、無防備、パーソナルというのが僕のソングライティングのヴァイブだね。僕はテイラーと並んでコナン・グレイが大好きで、彼みたいにどこまでも無防備な曲を書きたい。パーソナルで無防備なストーリーテラーでありたいね。 ―テイラーとコナンは共にアメリカ人ですが、地元のアーティストで誰かお手本にしている人はいますか? ヘンリー:僕はコールドプレイの大ファンなんだ。アンセミックなスタジアム・ポップが大好きだから。アデルの曲も人生を通じて本当にたくさん聞いてきた。彼女こそは英国を代表するアーティストで、みんながインスパイアされているし、特にバラードは最高だよ。あとはサム・スミスかな。英国人アーティストに関してはこの3組が僕のファェイバリットだね。