『イカゲーム』が照らし出す“人間の欲望” シーズン3はさらに熱量が込められた内容に?
韓国のドラマシリーズ『イカゲーム』が、北米を含め、ここまで世界的な大ヒットを成し遂げるとは、誰が予想しただろうか。Netflixのドラマ作品のなかでも世界の視聴数ナンバーワンの記録を打ち立てるなど、アジア圏の映像作品としても、まさに未曾有の領域に突入したのが、記念すべき本シリーズ『イカゲーム』なのだ。 【写真】『イカゲーム』シーズン2場面カット(複数あり) その魅力の大きな部分を占めるのが、困窮した一般の人々による、恐怖のデスゲームにある。借金やトラブルを背負った市民が、孤島に集められ、一攫千金をかけた死のゲームに参加するのである。そんなゲームの内容は、不気味なことに子ども時代の郷愁を刺激する遊びを題材にしたもの。常軌を逸した状況のなかで、イ・ジョンジェ演じる中年男性ソン・ギフンは、サバイバルを目指して命を賭けたゲームに挑んでいく。 そんな本シリーズのセカンドシーズンが、ついにリリースされた。前シーズンから引き続き登場する主人公ソン・ギフンの今回の目的は、もはやサバイバルだけではない。死のゲームに参加しながら、この狂ったイベントを終わらせるべく、あらゆる手段を使って謎の組織に対抗するのである。気になるのは、イ・ビョンホン演じるイベントの運営責任者「フロントマン」だ。彼は、ゲームにどのように絡んでくるのだろうか。 ここでは、ドラマの新たな展開を追いながら、新シリーズがどのようなものを描こうとしていたのかを、明らかにしていきたい。 ※本記事では、『イカゲーム』シーズン2の展開に触れる記述があります。ご注意ください。 前述したように、主人公ギフンはまたしても死のゲームに参加することになるのだが、その目的は賞金を手にすることではない。できるだけ多くの人々の命を救い、狂気のゲームを運営する組織を潰し、非人道的なおこないをやめさせるところにある。 それがよく分かるのは、ふたたびおこなわれる最初のゲーム「だるまさんが転んだ」での描写だ。「リピーター」であるギフンは、パニックが起こることを予期し、新たな参加者たちに大声で指示をおこなう。銃殺される参加者が出たことで、案の定パニックは起こってしまうのだが、ある“攻略法”を実践させることによって、死者をできる限り少なく抑えようと奮闘する。 第2ゲームは予想外にも、新たに考案された「5人6脚による5種ゲーム」。チームを組んで互いの足を結んで協力することにより、コマ回しや石当てなどの子どもの遊びをクリアしていかねばならない。大人たちが子どものゲームに力を注ぐ光景は一見微笑ましいが、タイムリミットまでにやり遂げなければチームごと銃殺されるというルールが、おそろしいところだ。 ギフンの旧友であるチョンベ(イ・ソファン)。仮想通貨詐欺に加担して自らも資産を失ったインフルエンサー、ミョンギ(イム・シワン)。その恋人で子どもを胎内に宿しているジュニ(チョ・ユリ)。ドラッグを常用してハイな状態でゲームを楽しむラッパー「サノス」(T.O.Pことチェ・スンヒョン)。今回もこのような個性豊かな参加者が集い、ゲームと同時に人間ドラマが描かれていく。 パク・ソンフン演じるトランスジェンダー女性ヒョンジュは、偏見の目を浴びながらも第2ゲームにてリーダーシップを発揮し、チームの尊敬を集めるようになっていく好人物である。ここでは多様性の観点から、このような偏見を払拭するようなキャラクターを登場させる試みが評価できる一方で、“マイノリティを当事者が演じる”といった、近年重視されつつある枠組みを無視しているのではないかという批判もある。 前シーズンで描かれた大きなテーマは、人間の欲望と善性だった。資本主義社会において勝者と敗者が生まれ、貧富の差が拡大していくなかで、勝つことや富に執着するといった人間の醜悪な部分が描かれる一方、損得を度外視した人間の優しさもまた存在するということが、重要な要素として配置されていたのだ。非人間的なゲームが進むなかで残酷な描写が続きながら、ただの俗悪な作品に本シリーズが堕してしまわなかったのは、このような現代を風刺する二項対立的な価値観が設定されていたからだ。 その意味では、前シーズンはセカンドシーズンへの拡張性を暗示しながらも、このテーマについてはある程度描ききっていたといえる。だから、今回のシーズンでは、既存のテーマに新たな要素を加えていきながら、より奥行きのある内容を目指したように感じられる。