『イカゲーム』が照らし出す“人間の欲望” シーズン3はさらに熱量が込められた内容に?
ギフン(イ・ジョンジェ)が選択する、運営側の想定の外にある“第三の道”
その軸となっているのは、ゲームの続行が参加者の「投票制」になっているという部分であろう。現状の賞金を受け取って生還するか、さらにゲームに挑んで死のリスクを背負って賞金の増額を狙うのかを、参加者たち自身が投票によって決められるのである。前シーズンにも同様の趣向が用意されていたが、今回はより参加者が能動的に試されることとなる。 忘れてならないのは、賞金額が増えるということが、死者が増えるということを意味しているということだ。自分だけのリスクにとどまらず、ゲーム続行に投票した者たちは、参加した人々の命に危険を及ぼすばかりか、参加者たちが命を落とすことを願っているということになる。これは、前シーズンで描かれた、欲望と善性との衝突を可視化したものだといえよう。 この投票システムがさらに風刺しているのは、現実の選挙制度だと考えられる。一方の候補に投票することで、多くの弱い立場の人々が窮地に追いやられることになる……さらには自分の身近な人や家族までが不利益を被ることになるかもしれない……そのことが分かった上で、人はしばしば自分の感情や欲望を優先して、社会全体にダメージを与えるような投票行動をしてしまうことがある。 本シリーズは、登場人物たちの投票によって、互いの関係が悪化したり、家族同士の不信を招く事態を描き、その上で他者を犠牲にしても利益を得たいという、人間の欲望を照らし出していく。この、参加者自身の投票によって毎ゲームごとに運命を決めさせるといった新趣向は、まさに人間の善性を嘲笑うかのような運営の思い通りに進んでしまう。 民衆に公平な機会や福祉サービスを与えようとする政治家ではなく、自身の利益や一部の大企業や富裕層の利益にばかり執着する不誠実な政治家が、しばしば民衆の手によって選択され、民衆自身がその犠牲になっていくといった構図が、ここでミニチュア的に再現されているのである。 そこでギフンが選択するのは、前に進むのでなく、後ろに進むのでもない、運営側の想定の外にある“第三の道”である。裏で強者が社会をコントロールしようとするのであれば、その理不尽な姿勢そのものに挑戦する必要があるという発想だ。 奇しくも、韓国では大統領が2024年12月に、緊急演説によって「非常戒厳」を宣言し、議員や市民の抵抗によって無事解除されるという騒動が起こった。最高権力者によるクーデターが回避されたのである。この騒動は、多くの韓国市民に1960年代の軍事クーデターを想起させる事態となり、市民の運動などにより1980年代に民主化を勝ち取ったように、大勢の市民が軍と対峙し抵抗する姿勢を見せたのだ。 ギフンら仲間たちの決断は“革命”に近いものだが、その精神性はまさに、民主化を目指した有志たちや、今回の市民の運動に重ねられる部分がある。それは、ゲームの治安を維持し、敗北した参加者を射殺する運営スタッフ「ピンクガード」の凶行が、1980年にデモ参加者が軍に虐殺された凄惨な事件を想起させるものがあるからではないか。市民が民主主義を勝ち取ったという自負が、韓国ドラマ『イカゲーム』におけるシステムへの挑戦に類似するのは、そういう意味で必然的な帰結であると考えられるのである。 『イカゲーム』シーズン3は、2025年にすぐ配信される予定だという。そこでたどり着くことになるだろう真のラストが、韓国の民主化運動やクーデター阻止という、現実の流れに沿ったものになるのかは、まだ分からない。しかし、韓国の民衆の歴史や人々のリアルな意志がベースにあるからこそ、『イカゲーム』の続きの物語が、さらに熱量が込められたものになるだろうことは疑いようがないところだ。
小野寺系(k.onodera)