吉田沙保里らメダリストを生んだ「金メダル坂」 レスリング女子がパリ五輪に向け聖地巡礼
パリ五輪でメダルラッシュが期待されるのがレスリング女子。開幕まで2カ月を切り、五輪代表選手たちが〝聖地巡礼〟で心身ともに鍛え直した。5月31日から3日間、新潟県十日町市の桜花レスリング道場で合宿。山間にぽつんとたたずむこの道場は、数々のレジェンドたちが鍛錬して栄光につなげた場所だ。国民栄誉賞に輝いた吉田沙保里さんや伊調馨(ALSOK)らも過去に足腰を鍛え抜いた通称「金メダル坂」では、パリ代表の須崎優衣(キッツ)や藤波朱理(日体大)らがトレーニング。脈々と続く伝説を受け継ぐ覚悟も新たにした。 【写真】道場下の金メダル坂で2人をおんぶして走った桜井つぐみ ■新潟県の山間の道場 湯の香が漂う越後湯沢駅から車を走らせること約45分。急カーブや折り返し、アップダウンを繰り返した山道の先に日本レスリングの聖地といえる桜花道場はある。今年も女子日本代表が訪れ、力を蓄えた。須崎は「本当にもうレスリングだけ、トレーニングだけに集中できる環境。オリンピック前にここに来られてよかった」と声を大にした。 数々の世界チャンピオンを生み出したのが道場の下に連なる坂道「金メダル坂」だ。練習が公開された6月1日は約300メートルのダッシュに加え、しゃがみ歩き、2人おんぶに2人担ぎなど少しずつメニューを変えながら、約1時間も足腰をいじめ抜いた。普段はマシンなどの器具が充実した施設でトレーニングするトップ選手が、前時代的ともいえるメニューで鍛錬。年長選手として常に先頭で引っ張った24歳の須崎は「最後にきついところって、試合と重なる部分があると思う。オリンピックの試合だと思ってやり切りました」と力を込めた。 ■30年を超える歴史 道場は1991年、当時日本レスリング協会会長の福田富昭氏(現名誉会長)が私財も投じ、旧六箇小学校塩之又を改修して開設した。マット3面の奥には食堂や更衣室、露天風呂もある。2階には簡易のトレーニング場と寝室があり、代表選手も雑魚寝。須崎が初めて訪れたのは高校1年のときで、強化選手として2016年リオデジャネイロ五輪代表選手らとともに汗を流した。「吉田沙保里さん、伊調馨さんが背中で見せてくれた。私もそういう存在になりたいと思って、ずっとやってきた」と振り返る。 19年から数えて4回目の訪問だったという藤波も「初めて来たときにオリンピック選手もいて、すごくキラキラして見えたのを覚えている。自分が今度はあのときの先輩みたいになれているのかな、と思ったりもします」と述懐。東京五輪で姉妹金メダルを果たした川井(現金城)梨紗子、(現恒村)友香子(いずれもサントリー)の2人の走力が圧倒的だったことは今も脳裏に焼き付いているという。今回も下は高校3年の強化選手が参加。多くの歴史が刻まれる場所だからこそ、伝統がしっかりと受け継がれている。
日本レスリング協会の富山英明会長も「やっぱりここは女子レスリングの1つの歴史。それに触れながらやるということも大事なこと」と強調した。04年のアテネ大会で女子レスリングが正式種目になって以降、日本は5大会で15個の金メダルを獲得してきた。その礎の一端がこの桜花レスリング道場だ。今回の合宿で伝統を再確認したパリ五輪代表も、気持ちを新たに歴史を紡いでいく。(大石豊佳)