東京から奄美大島へ…。148センチの代打が流れを変え、一時リードした大島!鹿児島実に逆転負けも、最後までプロ注目右腕を追い詰める【24年夏・鹿児島大会】
<第106回全国高校野球選手権鹿児島大会:鹿児島実 7-4 大島>◇9日◇1回戦◇鴨池市民球場 【トーナメント表】夏の鹿児島大会 ここまでの結果 鹿児島実と大島。2年前の夏の決勝戦に象徴されるように、過去度々対戦し、好勝負を繰り広げてきた1回戦最注目の好カードだった。 序盤は鹿児島実がペースを握った。2回裏に7番・丸山 陸(3年)で先制し、3回は四球、けん制悪送球で好機を広げ、3番・下原口 仁(3年)の左前適時打、6番・新改 幸士朗主将(3年)の中前適時打で2点を加えた。 5回まで今大会注目度ナンバーワンの好右腕・井上 剣也(3年)の前に1安打に抑えられていた大島だったが6回に反撃に転じる。 先頭の1番・吉野 翔(3年)が四球を選び、初めて先頭打者が出塁すると、3番・要彌 真登主将(3年)がエンドランを決めて一三塁と好機が広がり、4番・永田 泰雅(3年)の中前適時打で1点を返す。 二死一二塁と好機が続き、6番・富 虎太郎(3年)が右越え二塁打を放って2点目。代打・橋口 青波(3年)が中前2点適時打を放ち、計4点を返して逆転に成功した。 その裏、鹿児島実は二死二三塁で1番・満留 裕星(3年)が中前2点適時打で再び逆転に成功。8回表の一死満塁のピンチをしのぐと、その裏に2番・髙橋 裟輝亜(3年)の右越え2点適時二塁打で点差を3点に広げた。大島の粘りに苦しみながらも、最後は3点差を守り切った鹿児島実がシード校の底力を発揮した。 3点差を追いかける5回表。大島の小林 誠矢監督が先頭打者の代打に指名したのは、身長148センチの森 翔太(3年)だった。 幼い頃から軟骨無形成症の難病を患う。小3の頃、東京から奄美大島の古仁屋にやってきた。2つ上の求 航太郎(現・東海大)が「一緒に野球をやろうぜ!」とハンディーのある自分にも、分け隔てなく接してくれたことで野球が好きになった。 満足に走れず、守備は心もとない。高校でも野球を続けるかどうか迷ったが「小ささを逆に生かせ!」と勧めてくれたのも求だった。代打の一振りで仕留められるようバットを振り込んだ。身長が極端に低い分、ストライクゾーンが狭くなるので四球で出塁も狙える。 それまでプロ注目の右腕・井上に手も足もでてなかった「流れを変える」(小林監督)仕事を森に託した。 「ベルトより上のボールは振らない。ベルトより下のボールをしっかり叩く」。2ボール1ストライクから4球目を強振。三ゴロで出塁は叶わなかったが、森が恐れずに弾き返したことで、試合の流れは明らかに変わった。 6回の逆転劇の場面。エンドランを決めた3番・要主将は「森が弾き返してくれたことで打席での恐怖心がなくなった」という。常速140キロ超の速球対策は散々やってきたが、実際に打席に立つと恐怖心がどうしても拭い去れなかった。それが6回は恐怖が消え去り「絶対に打てるというゾーンにみんなが入って、楽しかった」。 劣勢の流れを覆し、過去の対戦で一度もリードすることさえできなかった鹿児島実を逆転できた。「束になった時の力はすごい」(小林監督)ことを証明してみせた。とはいえ、またしても勝てなかったのも現実。喫した3失策がことごとく失点に絡んだ。この現実から目をそらしてはいけない。 「人生に挑戦して欲しい」。試合後、小林監督はナインに語り掛ける。3年生はこれからの進路に、残る1、2年生は「島から甲子園」という夢に挑戦し続ける。叶う保証はなくても挑み続ける。大島が過去の先輩たちから脈々と受け継いでいく誇るべき「伝統」だ。
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