米不足に防災、アウトドアなど需要上昇中の「サトウのごはん」が長期保存とおいしさを両立できるワケ
2024年の夏は、米の収穫不足によってスーパーやコンビニから米が消えるという現象が起きた。それに伴ってパックごはんの需要も高まり、米と同様に店頭では品薄状態になってしまっていた。 【写真】おいしさの秘訣は容器の内部にある酸素吸収層 今やあたり前になっているパックごはんは保存食として各家庭で常備されるほか、時短のために日常的に食べる人やキャンプなどのアウトドアで活用する人も多くなってきている。そもそも、パックごはんは炊き上げた米をどのようにして長期保存できるように加工しているのか、その方法はあまり知られていないように思う。 そこで、パックごはんの草分けでもある「サトウのごはん」を販売するサトウ食品株式会社(以下、サトウ食品)経営企画部の浅川梨乃さんに、パックごはんは長期保存をどのように実現しているのか、近年の需要の高まりをどのようにとらえているのかなど、話を聞いた。 ■炊きたてごはんをいつでも食べられる釜炊き製法 ロングセラーのサトウのごはんが誕生したのは 1988 年のこと。先に発売していた「 サトウの切り餅」に続く商品の開発を検討していたのだという。当時は電子レンジが普及しつつある時代で、レトルト食品も多く出てきており、レトルトのごはんも販売されていたが、 あまりおいしくない」というのが世間一般の評価だったのだそう。そこでサトウ食品は、サトウの切り餅に用いていた 無菌化技術」を応用してパックごはん開発を決定した。 「袋や容器に米と水を入れて密閉した後に、殺菌も兼ねた加熱をするレトルト炊飯は、必要以上に熱が加わるほか、密閉したまま保存されるので、炊飯時の蒸らした匂いが過剰に残ります。また、袋や容器内のまま加熱するため米に均一に熱が伝わらず、べちょっとしていたり硬くなっていたりして、おいしいと感じにくかったのだと思います。そこで、サトウ食品では、密閉後に熱を加えるレトルト製法に変えて、あらかじめ瞬時の加熱で殺菌した米を、昔ながらの“はじめチョロチョロなかパッパ”の火加減で炊く“釜炊き製法”を採用しました。この製法は当社独自の技術で、お釜に米と水を入れて 1 食ずつ丁寧に炊き上げています」 大釜で大量の米を炊き上げてパックに移す作り方をイメージしがちだが、そうではなく 1 食分ずつ分かれたお釜で米を炊き上げて、炊いた米を無菌室(クリーンルーム)にて容器に移し替えるのだという。こうすることで、無菌状態で保たれるため、いつでも炊きたてのごはんを食べることができ、保存期間も長くできたのだそう。特に無菌室では、作業員が菌を持ち込まないように徹底的に管理しているそうで、無菌状態は手術室レベルと同等だという。 「炊きたてごはんのおいしさを保つには、無菌化に加え、風味と食感の保持が必要でした。風味を保つために酸素の侵入を防ぎ、食感を保つために水分を保持することが必要です。そこで、容器に工夫を凝らすことにしました。サトウのごはんの容器には、食品でよく見かける脱酸素剤と同じ役割の酸素吸入層というものがあります。この層があることでパック内部の酸素を吸収し、外部からの酸素の進入を防いでいるんです」 こうすることで炊きたてのようなごはんの甘み、粘り気、香りを再現することができ、かつ1年間という長期間の保存を実現したという。「酸素の進入とともに、水分が蒸発するのも防いでくれるので、ふっくらごはんをいつでも食べられます」と浅川さん。無菌室の無菌状態は手術室レベルにもなるという。 ■発売当初の売り上げ低迷を回復させたのは地方のスーパー!? こうして発売されたサトウのごはんであるが、当初全く売れなかったのだという。パックごはんという特性上、独身や単身の人をターゲットとしてコンビニを中心に展開したのだが、その想定が外れてしまった。 「コンビニで食事を買う人は、おにぎりや弁当、カップ麺などの1品で完結するものを選ぶので、ごはんだけを求める人はほとんどいませんでした。そもそも当時は『ごはんは家で炊くもの』というイメージがあり、わざわざ買うものではないと思われていたようなんです」 当初の想定を大きく外してしまい、コンビニでの展開がうまくいかなかった一方で、発売から少し経った後、地方のとあるスーパーではサトウのごはんの売れ行きがよいという情報を耳にしたそう。そのスーパーで購入者層を調査したところ、主婦や高齢者が多いという結果が出たという。 「理由を調査してみると、お昼ご飯に自分の分だけごはんを炊くのが面倒といった主婦の悩みにサトウのごはんがうまくハマったみたいなんです。こうした結果を踏まえ、販売先を コンビニからスーパーへ変更することにしました。そうすると、主婦のあいだで口コミが広まり、売り上げも伸びていきました」 あえて少量のごはんを炊きたくないという悩みにコミットしたサトウのごはん。なかには200 グラムの通常サイズは量が多いという声にも対応し、130 グラム、150 グラム、180 グラムも発売。今では、サトウのごはんのラインナップは約 50 種類にのぼるという。 ■右肩上がりの需要に対応していく 発売当初から製造方法は変えていないというサトウのごはん。その一方、包装技術や容器は改良してきたという。それは、高齢者から届いた「 ふたの密閉強度が強くて開けにくい」という声だった。 「酸素が入らないようにするにはふたの密封性は必須です。それと同時に剥がしやすくすることに非常に苦労しました。さまざまな包装資材を試し、密封性を保ちながらも剥がしやすいという、一見矛盾した願いをかなえてくれるものをようやく見つけることができました」 浅川さんは「今後もこうした消費者のニーズに応えて手軽でおいしいごはんを提供していきたいです」と付け加えた。サトウのごはんをもっと日常的に食べてもらえるようにしたいと考えているのだそう。現在、サトウのごはんの売り上げは右肩上がりとなっているそうで、生産をフル稼働させて供給しているのだという。こうした背景には近年のタイパ・時短志向も影響しているようで、さらに昨今、炊飯器はなくとも電子レンジは必ずといっていいほど各家庭で所有していることも人気増の要因のひとつのようだ。 「現在、1 日に 123 万食、1 年にすると 4 億食を生産しているのですが、これでも何とか需要に応えている状況です。2024 年 2 月に工場の生産ラインを 9 ラインから 10 ライン体制にしました。さらに、2026 年 12 月には新潟県に新たに工場を建てて、今後も増えていく需要に対応していく予定です」 自然災害への懸念も高まっている近年は保存食として常備しておく家庭も多いのではないだろうか。実際に阪神・淡路大震災、東日本大震災の際にはサトウのごはんが被災地に提供され、コロナ禍の自宅療養セットにも入ったそう。 「サトウのごはん発売当初は全く売れませんでしたが、 いつかごはんを求める時代が来る』と思って作り続けました。その結果、今では有事の際の保存食以外にも、日常的に食べる方が増えています。まさに、当社の思いが的中しました」 新潟県聖籠町にある聖籠ファクトリーでは、サトウのごはんの工場見学ができ、1 食分ずつ釜炊きしている様子を実際に見ることができる。浅川さんは「 見学された方は、ひとつひとつ釜炊きしていることに驚かれます。“サトウのごはんは釜炊き=だからおいしい”、ということをもっと伝えていきたいです」と語る。日本食の代表ともいえる米のおいしさ、サトウのごはんで再確認してみては。 文・取材=織田繭(にげば企画)