『虎に翼』滝藤賢一の喜怒哀楽が味わえる極上な回に “香淑”をもう一度取り戻した香子
桂場(松山ケンイチ)の中で相反する2つの感情
その抗議文の草案はすぐには桂場(松山ケンイチ)に受け取ってもらえなかった。電話越しにいつもの調子で「このドケチ! 仏頂面野郎!」と怒鳴る多岐川。桂場にとってはそれが多岐川との最後の会話となってしまった。久藤(沢村一樹)が、多岐川の訃報と意見書を持って桂場のもとにやってくる。意見書を睨みつけ手に取った桂場の目の前に現れたのはちょび髭を生やした若き頃の多岐川。「頼んだからな、桂場。ハハハハハハ!」と高笑いしながら、舌を出しておどけて見せる。鬼の形相で真っ直ぐに睨みつけながら、涙をこらえる桂馬の前から、やがて多岐川の幻影は消えていく。最高裁長官として桂場が背負うものと多岐川への恩情が二律背反でせめぎ合っているのが分かる。そして、多岐川の最後の登場回となった第115話は、滝藤の芝居の喜怒哀楽、もしくはそれ以上を味わえる極上な回となった。 9月18日に特別番組『虎に翼×米津玄師スペシャル』(NHK総合)の放送が発表される中で、ついに『虎に翼』も残り2週。次週予告では、星家に明律女子部が集まっていたりと、かなり濃厚な1週間を覚悟させられるが、思わずゾクッとしまったのは、ラストにゆっくりと姿を現す森口美佐江(片岡凜)。「新潟編」以来登場しておらず、劇中ではあれから数十年は経っているはずだが、姿はセーラー服なのだ。思い出すのは、かつて美佐江が寅子に投げかけた「悪い人から物を盗んじゃいけないのか。自分の体を好きに使ってはいけないのか。人を殺しちゃいけないのか」という問いかけで、それは美位子(石橋菜津美)の尊属殺の裁判ともリンクしている。
渡辺彰浩