「カスハラ」法整備でもそう簡単に解決しない事情
もちろんカスハラは中高年層だけの問題ではありません。たとえば、ある飲食店に務める相談者さんは、「カスハラは高所得層に多い」「肩書や収入に自信がある人ほど上から目線で、穏やかな口調でも理不尽なことを言う」などと言っていました。特に「2020年代に入って以降、社内のパワハラやセクハラに配慮しなければいけなくなった分、酔った勢いもあって外部への人当たりが強くなりがちな人が増えた」という声を聞いたことがあります。
逆に、ある役所に勤める相談者さんは、「カスハラは低所得層に多い」と言っていました。公務員やバス・電車などの交通インフラ関係者などは、一般企業よりも「入場禁止」「提供拒否」などがしづらい環境に置かれています。その相談者さんは「低所得層と思われる人は、拒絶できないこちらの立場をわかったうえで過度な要求をすることがある」と言っていました。 ■「ダブルハラスメント」に苦しむ人も ここまで年齢や所得の例をあげてきましたが、あくまで相談者さんから聞いた一部のケースにすぎません。ストレス解消や憂さ晴らしの意味でカスハラする人もいますし、企業側の「注意事項」「お客様へのお願い」などに目を通さず相手に非があると決めつけて怒る人もいます。
これを書いている筆者自身も、無自覚のうちにカスハラをしていたかもしれませんし、ここまで自戒の念を込めて書いてきました。現段階ではカスハラの線引きが曖昧だからこそ、「自分は絶対にしないから大丈夫」という思い込みを捨て、「個人の尊重や自分らしく生きる」という風潮を拡大解釈せず、すべての人が気をつけるくらいの社会になったほうがいいように見えるのです。 もし行政や企業に対策を任せるだけにすると、カスハラは収まらず、逆にますます社会問題化してしまうリスクがゼロとは言えません。すると、「すべての状況でやり取りを録音・録画される」ような監視社会になり、ネット上で拡散されることを恐れて窮屈な日常を強いられてしまう可能性もあるでしょう。