夫は55歳で「年収600万円」の会社員です。子どもが独立して退職金も「2000万円」あるので、早期退職して「月15万円」の短時間勤務で働くと言っています。収入や年金が心配ですが大丈夫でしょうか?
総務省統計局 家計調査年報(家計収支編)2022年(令和4年)家計の概要 65歳以上の夫婦のみの無職世帯(夫婦高齢者無職世帯)の消費支出内訳 収入については、年金収入のみとして計算してみます。夫が20歳から55歳まで年収600万円(月収50万円)で35年間働き、以降65歳までの10年間は短時間勤務で月額15万円の収入を得ていた場合だと、世帯の年金額は以下のようになります。なお、妻は専業主婦であると仮定します。 まず、老齢基礎年金は40年以上の加入期間があると満額の81万6000円(令和6年度)を受給することができます。夫と妻ともに満額受給できると仮定し、世帯全体で「81万6000円×2人分=年間約163万円」が受給できます。 さらに、夫は会社員であった期間の分、厚生年金の報酬比例部分が受け取れます。20~55歳までの「50万円×5.481/1000×420ヶ月=約115万円」と、短時間勤務であった55~65歳の「15万円×5.481/1000×120ヶ月=約10万円」を合算すると年間125万円になります。世帯全体の年金収入は163万円+125万円=年間約288万円です。 支出284万円、収入288万円ですので、ギリギリ収支は賄えています。 しかし、この計算における「非消費支出」には、税金や社会保険料などの非消費支出が含まれていないうえ、万が一の備えである貯蓄がないことも考えると、老後を不安なく暮らすという点ではかなり心もとない結果と言えるでしょう。
老後資金対策の選択肢は豊富にある
上記の計算結果を見て、「退職金が2000万円あっても、55歳で短時間勤務に移行するのは難しいのか」とため息をついている人もいるかもしれませんが、それでも老後対策の選択肢は多岐にわたり、あまり悲観する必要はありません。 今回示した例でも「正社員として働く期間を少しだけ長くする」「65歳以降、短時間勤務で働く期間を少し長くする」といった対策を取るだけで、収支は劇的に改善します。 例えば、年収600万円の正社員の期間を3年延ばして58歳までとすると、収支は「(600万円[正社員の場合の年収]-180万円[短時間勤務の場合の年収])×3年=1260万円」も改善し、65歳時点で1000万円以上の蓄えを保てます。 さらに、受給可能な年金額も年間数万円アップすることから、必要な生活費をほぼ年金で賄うことも可能な計算です。 また、正社員で長く働くことが難しくても、65歳以降にも短時間勤務で数年間長く働けば、それだけで収支は大きく改善します。また、いずれの場合も年金を繰下げ受給するといった対策もとれるため、選択肢は色々と考えられます。 ほかにも、退職金を活用し、55歳からでもNISAなどで長期・分散・積立を基本に運用すれば、10年以上の運用期間がとれるため、リスクを抑えながら資産の目減りを少なくすることも期待できます。このように、いくつかの老後対策を組み合わせて考えれば、自分に適した選択肢を見いだすことは決して不可能ではありません。
まとめ
退職金が2000万円あっても、55歳といった年齢での早期退職および短時間勤務への移行は、少しリスキーな印象が残ります。一方で、働く期間を長くする、長期の資産運用を実践する、年金の繰下げ受給をするなど、老後対策の選択肢は決して少なくありません。 まずは、働き方も含めた50代後半以降のライフスタイルを想像し、可能な対策に早めに取り組んでみてはいかがでしょうか。 出典 総務省統計局 家計調査年報(家計収支編)2022年(令和4年)家計の概要 日本年金機構 は行 報酬比例部分 執筆者:松尾知真 FP2級
ファイナンシャルフィールド編集部