『陰陽師0』佐藤嗣麻子監督 徹底考証した平安装束、当時を再現するVFX【Director’s Interview Vol.400】
徹底考証した平安装束
Q:この映画のために乗馬、装束の着付け、ナチュラルガーデニングを習って準備されていたとのことですが、いつ頃から始められたのでしょうか? 佐藤:『アンフェア the end』(15)を撮り終わった後ぐらいからですかね。乗馬は今年で4年目になりますが、サボってばかりで撮影中も行けなかったので、実質はそんなにはやれていませんね(笑)。 Q:衣装もしっかり作り込まれていて、女性の着物の襟合わせがないことに驚きました。 佐藤:あれは小袖というものです。昔は下着が無かったので、本当は胸がはだけているんです。劇中で着ているものは夏の装束なので、羽織っているものはスケスケ。ただ、映画だとレイティングの問題もあるので、袴を上げて隠しました。偉い人はパジャマ姿でよくて、周囲の仕えている人たちが十二単なんです。周りはちゃんと正装する必要があるけれど、姫はリラックスした格好でも大丈夫。また、重たい十二単はおそらく明治時代ぐらいからのものですね。平安時代のものはすごく薄い絹で出来ていたからあまり重くなかったはず。だから、映画やテレビと本物ではいろいろと違うんですよね。 Q:装束に関しての知識と考証がすごいですね。 佐藤:衣装は調べて着付けも勉強しました。昔は綿が無かったので麻か絹だったんです。もちろん映画なので全部麻や絹というわけではありませんが、徽子女王の衣装は全部絹で出来ています。晴明の衣装は高野山の倒れた木を集めた“高野霊木”で織ったものです。晴明っぽくて良いなと思い撮影用に作りました。今回の衣装の伊藤佐智子さんは布にすごく詳しくて、私が“小石丸”という蚕の話をしたら、「えっ⁉︎ 小石丸、用意した方がいいですか?」と(笑)。小石丸は“幻の絹”と呼ばれる何千万円もするような絹なので、とてもじゃないけど使えないんです。それをちゃんと分かっていらっしゃる方ですね。
平安時代を再現するVFX
Q:平安時代の建物がデティールまでしっかり表現されていて説得力がありました。ロケ、セット、VFXの使い分けはどのように判断されたのでしょうか。 佐藤:室内の板の間は全部セットで、渡り廊下やお寺のシーンはロケで撮りました。いわゆる“寝殿造”といわれている建物は、世の中に本物は存在していません。大河ドラマなどでよく使われる、岩手県にある「藤原の郷」という歴史テーマパークがあるのですが、そこで外観と一部をロケ撮影しました。庭の“抜け”は全部CGで作っています。今回、帝がいる清涼殿は絶対に出したかったので、ちゃんと京都御所に行って清涼殿をポートレイト的に撮影したり、地図等で計測しながら、3DCGで建て直しました。また、今までの『陰陽師』では平城京の三つの門の朱雀門を平安京の朱雀門に見立てて撮影されていましたが、本来の平安京は五つの門。今回はそれを再現したくて、ちゃんと五つの門にしました。清涼殿と朱雀門をビジュアル化したのは多分史上初だと思います。 Q:平原や山、森や海など、外の画にとても奥行きがありましたが、ロケ場所はどのように見つけられたのでしょうか。 佐藤:晴明が見る夢のシーンは、もともと外国の風景にしたかったんです。スコットランドの北にあるハイランド地方に以前行ったことがあるのですが、すごく綺麗な場所でした。それで「ハイランド地方みたいなところがいい!」と言っていたのですが、「そんなお金は無い」と(笑)。それでとにかく地面だけを探して、背景はCGで描き込むことにしました。実際に撮影したのは木更津の牧草地です(笑)。背景を描いてくれたのは『ゴジラ-1.0』で、爆破シーンなどをやっている江場佐知子さん、最高に上手な方ですよ。 水辺で行う祈祷の舞は琵琶湖で撮りました。“抜け”に何も無い良い場所でしたね。今までの平安モノはすごく狭く画を撮っているので、「もったいないな」といつも思っていました。それで今回は画を広くしようと常に意識していました。 Q:今回のVFXは呪術の表現や平安時代の社会の様子の再現など、その仕事は多岐に渡ります。監督としてはどこまで具体的に指示されているのでしょうか。 佐藤:基本的には全部指示します。もともと私はVFXを相当やっていて、映画だけではなくゲームの「鬼武者」や「バイオハザード」なども手掛けていて、ゼロからCGのみで映像を作った経験もある。だからCGに関しては随分口出しします。「草原から上は全部CG」とか「好きじゃない天気だったから空変えてね」とか(笑)。具体的なビジュアルは自分で資料を集めて提示します。そうしないとイメージの共有はなかなか難しいですよね。
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