狂気の不倫ドラマに出演する20歳俳優の父親は“まさかの人物”。笑ったときのエクボが似てる
息子の初陣にテクニカルなアドバイス
でも違った。みのりが張り込みを続け、勇大と渉が食事を楽しんでいるところへ、別の女性が加わる。さっきのジュエリーは、その女性・三宅理子(野波麻帆)の誕生日を祝うプレゼントだった。みのりとの幸せなはずの3人家族以外に、勇大はもうひとつの家庭との二重生活を送っていた。 夫のもうひとつの家庭を崩壊させることを誓ったみのりは、まず渉に接近する。彼が通う塾の担任になるのだが、広くはない教室内で蛇に睨まれた蛙のように、野村が184センチの長身を縮こまらせるのがいい。 第2話冒頭、みのりが渉のややゆるんだネクタイをキュッと直す。野村が首をくっと引いた瞬間、あれ、お父さんの面影。笑ったときに浮き出るエクボなども、沢村一樹が浮き出てくるくらい似てる。似てるついでに言えば、教室で静かに座る涼し気なサラッと感は、そうだな、『オオカミ少女と黒王子』(2016年)で主演の二階堂ふみが、“和製アラン・ドロン”と形容した吉沢亮がメガネを外したら、きっとすごく似ている。 こりゃいいぞ。完全に野村康太ファンになった。俳優とモデルを両軸にキャリアをスタートした野村は、デビュー作を一緒に見てほしいと沢村一樹と約束していたらしい。『新・信長公記~クラスメイトは戦国武将~』(読売テレビ、日本テレビ、2022年、以下、『新・信長公記』)の前田利家役が、デビュー作になるだろうか。 息子の初陣に対して、沢村が「目線はもう少しこうした方がいいよ」と、次の現場ですぐ使えるテクニカルなアドバイスをしているのも微笑ましいエピソードである(モデルプレスのインタビューより)。
BLドラマから不倫ドラマへ
「ずっと見てたがや」と言って勢いよく敵に好戦する同作の前田利家役は、確かにまだ視線の動かし方、決め方、安定のさせ方が定まっていない演技ではある。ほんとうに初々しい初戦だった。 若手俳優のキャリア形成にはいくつかの方向性があるが、現在の王道は、BLドラマでまず足場をならすこと。若手俳優にとってのBLドラマ出演とは、いわばその俳優のトリセツを抽出するための試金石のような役割だと筆者は考えている。 その意味で、仮面ライダー俳優出身でも、恋愛リアリティ番組出演歴もない野村にとって、BLドラマは何としても出演する必要があった。今年配信されたBLドラマ『パーフェクトプロポーズ』(フジテレビ)で初主演を果たしたのは重要なつなぎ目。 『新・信長公記』から考えると、演技の水平軸はブレずにうまく抑えられていた『パーフェクトプロポーズ』(第5話の初キスシーンは、BLドラマ史上最高にサラッとした名演技)を経て、『夫の家庭を壊すまで』で不倫ドラマに出演することで、俳優として次のフェーズに入ったと考えていい。 主人公が偏執狂になることで共通点も多い、齊藤京子主演のドロドロ不倫ドラマ『泥濘の食卓』(テレビ朝日、2023年)では、Mr.Childrenのボーカル・桜井和寿の息子である櫻井海斗が出演した例もある。 BLドラマから不倫ドラマへ。野村康太は、着実にステップアップしている。段階を踏んで現場を積むごとにめきめき実力を伸ばす姿が、豊かに可視化されるタイプの俳優だ。 <文/加賀谷健> 【加賀谷健】 音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu
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