「将来も必要とされる会社であること」特集・JAL鳥取新社長が語りかけた入社式
過去最多となるグループ40社約2600人が出席した日本航空(JAL/JL、9201)の入社式。鳥取三津子新社長も同じく4月1日に社長として初日を迎えた。 【写真】A350-1000 3号機が駐機された羽田の格納庫で開かれたJALの入社式 1985年4月に客室乗務員として東亜国内航空(TDA、のちにJAS、現JAL)に入社。JALでは初の女性社長、初の客室乗務員出身で、統合前の日本エアシステム(JAS)出身者でも初の社長就任となった。 社会人になったばかりの新入社員に対し、航空会社のトップが例年、安全の重要性を説く入社式。鳥取新社長も安全に言及したが、多くの新入社員たちが小学生だった14年前の2010年に経営破綻し、再生したJALを率いることになり、当時を知る一人としての決意もみられた。 ◆安全と乗客の命 「御巣鷹山のJAL123便事故が起きた1985年に客室乗務員として乗務を始めた。当時を知る者として、安全運航の大切さを次の世代に伝えていく責任がある」と、今年1月の就任会見であいさつした鳥取社長。航空会社の入社式といえば、必ずと言っていいほど、トップが新入社員に対して安全の重要性を説く。 鳥取社長も「安全」と「お客様」という2つのキーワードを交えた祝辞を新入社員たちに贈った。1月の羽田事故の犠牲者を悼み、「人の命の大切さ、安全運航あってのエアライングループであることを皆さんと一緒に胸に刻みたいと思う。JALグループの仕事は、どの業務に関わっていても、必ず『安全』につながっている。その先にいらっしゃるお客様の命にもつながっていることを決して忘れないで」と、運航とは直接関係のない職場であっても、グループにもっとも重要なものが乗客の命であることを強調した。 1月の会見で、赤坂祐二社長(当時、現会長)は「ここ数年で課題が多様化しており、チーム経営ができるかが非常に重要。長くお客さまのサービスや安全に従事してきた鳥取さんがふさわしい」と、鳥取氏が後任となる背景を説明。新型コロナでエアラインに突き付けられた多様化する課題へ対処していくためには、利用者の意向やチーム運営といった視点をより重視していく必要性がある、との思いだ。 入社式の祝辞で、鳥取社長はこうも語りかけた。「進むべき道に迷いが出た時、見失いそうになった時は、お客様のことを一番に考えてほしい。お客様に何がベストかを考えれば、必ず答えは見つかると思う。『安全』と『お客様』。その2つの視点を起点と考えて行動して欲しい」。 「安全とは何か」を問うことと、「利用者のために何をすべきか」には、通じるものがあるとして、さらに鳥取社長は会社の存在意義にも言及した。 ◆社会課題も解決していける会社 「必ずこの会社が将来も必要とされる会社であることを胸に刻みながら、一緒に進んでいきたい」。 今から20年前の2004年4月1日。JALとJASの統合が完了し、新しいJALがスタートした。しかし、その後は安全面の問題などさまざまな課題が噴出し、約6年後の2010年1月19日にJALは経営破綻する。2012年9月19日に東京証券取引所第1部へ2年7カ月ぶりに再上場を果たし、企業再生支援機構は3500億円の出資金全額を回収して再生支援を終えたが、破綻当時は二次破綻もささやかれたほどだった。 鳥取社長の「必要とされる会社」という言葉は、単に社会から必要とされる企業を目指す、という意味だけではないようだった。 入社式を終えた鳥取社長に真意を尋ねると「日本航空が会社として存続していくことは当然だが、人も減っていったり(記者注:日本の生産労働人口減少)と、社会課題もたくさんある。会社の成長と共に、社会課題もしっかり解決していけるような、そういう会社にならないと、企業の価値がないと思っている。みんなでそういう意識を持って進めていきたい」と、新入社員とともに目指す道のりを語った。 旺盛なインバウンド(訪日)需要とは対象的に、日本から海外へ向かうアウトバウンド需要は回復が遅れ気味であり、コロナ前の旅客需要に戻りきらない要因の一つでもある。そして、日本の人口減少といった解決が難しい課題が山積する中、数年に1回は航空業界を襲う感染症など、将来の脅威に対する準備も進めなければならない。 JALは現在、2021-2025年度の中期経営計画が進行中。3月には今年のローリングプラン(改訂版)を発表し、移住した定住人口や観光で訪れる交流人口には当てはまらない「関係人口」の創出などを重点課題に位置づけ、非航空系事業の強化と共に、本業の航空需要の取り込みも強化していく。 客室本部長時代、鳥取社長は「自らチャレンジできる人、こころを尽くすことに喜びを感じる人、責任感や使命感、当事者意識を持つことができる人」を求める人物像として挙げていた。 「安全」と「お客様」という二大項目を、JALグループはどのように捉えていくのだろうか。
Tadayuki YOSHIKAWA