相続人が10名も!?…面倒な遺産分割協議を「イチ抜け」して遺産をもらう方法【司法書士が解説】
家族構成によっては、遺産分割協議への参加人数が多くなり、話し合いが面倒になる場合もあります。面倒な遺産分割協議を避け、遺産をもらう方法はあるのでしょうか。多数の相続問題の解決の実績を持つ司法書士の近藤崇氏が、実例をもとにわかりやすく解説します。 年金に頼らず「夫婦で65~80歳まで生きる」ための貯蓄額一覧
妻子のない伯父が逝去…遺産分割協議への参加が面倒
相談内容 伯父が亡くなりました。伯父には妻子がいなかったため、私を含む甥姪、伯父のきょうだいなど10人が相続人となりました。 正直なところ、相続分としてもらえるものはもらいたいが、面倒な遺産分割協議には関わりたくないのです。いい方法はないでしょうか?
「相続分の譲渡」という、いい方法がある
回 答 「相続分の譲渡」を検討してもいい例かもしれません。 「相続分」という言葉は一般の方には馴染みが薄いのですが、例を挙げてわかりやすく説明してみます。 相続財産全体を、切り分ける前の丸いケーキだとします。相続人は、きょうだいA・B・Cの3名だとします。きょうだいそれぞれの相続分は1/3、つまり「丸いケーキを1/3取得する権利(=相続分)」という、漠然とした権利を持っている状態です。 しかし、遺産分割協議が確定するまでは、ケーキのどの部分を取るか(イチゴが乗っているところか、チョコプレートが乗っているところか)は決まっていません。 別にケーキは必要ないと思うなら、必ずしも各人1/3ずつ分ける必要はありません。全員が合意すれば、AとBで1/2ずつにしてもいいですし、Aが1人で全部もらっても構わないわけです。 「自分が持つ〈ケーキ1/3取得の権利〉を、いつも自分をいじめるB兄さんではなく、優しいA兄さんにそっくり譲りたい」というのが、相続分の譲渡に近い概念かもしれません。 ◆「自分の権利をあげる(売る)から、あとは残りの人で好きにして!」 このきょうだい3人の例で、相続分の譲渡を使うケースを検討してみましょう。 相続財産は、1筆の3000万円程度の土地だとします。 最初は、土地を売却して代金を3人で分ける予定でした。しかし、なにせ3名共同で売るため、なかなか売却が進みません。 Cはとりあえずお金が入ればいいので「じゃあA兄さん、1000万円で私の相続分を買ってください」(筆者注:これは500万円でも、無償で譲渡してもかまいません)というのが相続分の譲渡(売買・贈与)です。つまり、自分の相続分について「ほかの相続人に権利をあげでしまう」というのが相続分の譲渡です。 「自分の権利は、有償または無償であげますので、あとは残りの人で好きにしてください」というのが相続分の譲渡と考えればいいでしょう。 特定の相続人に相続分をあげたい場合や、遺産分割協議にまつわる面倒やトラブルに巻き込まれたくない場合など、実務上では便利な方法です。これは不動産などの特定の財産についても、相続財産全体について包括的に行うことも可能です。 ◆面倒な遺産分割協議を「イチ抜け」したい場合は便利だが、注意点もある 最初の質問例に戻りましょう。 このように、相続人が著しく多い場合、相続人の代表者や、自分に近い他の相続人(きょうだいなど)に有償で譲渡してしまう、という方法で、相続分を得つつも面倒な相続協議から離脱することも可能です。こうした点でも使い勝手がよいので、実務上も好まれるのでしょう。 余談ですが、民法に相続分の譲渡を明記している条文はありません。 民法905条に「譲渡した相続分の取戻しができる」とあることを根拠に、当然に可能としているのが登記実務上の扱いです。 民法第905条第1項 共同相続人の一人が遺産の分割前にその相続分を第三者に譲り渡したときは、他の共同相続人は、その価額及び費用を償還して、その相続分を譲り受けることができる。 また、上記の条文上、相続分は相続人でない第三者にも譲り渡すことが可能です。 しかし、まったく関係のない第三者が遺産分割協議の当事者になりますので、実際に使われるケースは稀だと思います(少なくとも筆者は見たことがありません)。またこの場合、税務上は贈与にあたるとみなされる可能性も生じますので、十分な注意が必要です。 東京高裁・平成17年(行コ)第140号。 *法定相続人外への相続分の譲渡については、「相続により財産を取得した個人」に該当しない 「相続分の譲渡」や「相続放棄」は便利ですが、よく理解したうえで上手に使わないと、トラブルの元となることもあります。専門家のアドバイスを求めたほうが安全でしょう。 近藤 崇 司法書士法人近藤事務所 代表司法書士
近藤 崇