ザックJが突きつけられた世界との差
勝者を称えた後、吉田麻也はがっくりとヒザに手をついた。気持ちを切り替えようとするかのように、香川真司はハーフタイムに続いて2着目の背番号10をユニフォーム交換した。完全アウェーのスタジアムで、日本代表が完敗の屈辱にまみれた。 「普段なら、我々はもっと良いプレーができる」。敗戦の将となった、アルベルト・ザッケローニ監督は繰り返した。この試合には、いつもの4-2-3-1ではなく、4-4-2のフォーメーションで対峙した。昨年、ポーランドで行われたブラジル戦で使ったシステム。前回対戦時は不在だった岡崎慎司を中央に置いての再チャレンジだったが、結果はまたも不発だった。 このシステムを採用した狙いは、「イメージ的には、前線で体を張って周りを活かす。その分、(香川)真司も(本田)圭佑も空くので、その時に裏を狙う」(岡崎)というものだった。 だが、長いボールを収めればダビド・ルイスの当たりに倒され、裏へのランもD・ルイスの追尾、チアゴ・シウバのカバーに封じられた。「クロスが入った時のセンターフォワードに対し、2人のセンターバックは空中戦に強い」(ザッケローニ監督)と、真っ向からの空中戦以外に活路を見いだしての岡崎起用だが、ブラジルが、そう簡単に事を運ばせてくれるはずもなかった。 ならばと頼りにしたいのが、中央に構える本田だったが、1人に過剰な負担をかけることは得策ではない。何よりチームが望むところでもない。それでも本田は、セレソン相手にボールをキープする強さを見せたが、徹底的なマークに合った。さらには「攻撃でリスクをかけられなかった」(香川)と、ゴールへ向けて本田より前の選択肢、少なくとも背番号4に絡んでいく動きがなければ、疲労ばかりが募っていく。最終的に背番号4は、試合終了をピッチで迎えることなく交代で退いた。 武器としたかった岡崎、軸となる本田の負担過剰と、前線の不発が続いたが、そもそも前線へのボール供給自体を増やすことができなかった。その源はボールを奪えなかったことにある。 内田篤人はネイマールに対し、絶妙の間合いを取った。1対1では、そうやられなかったが、チーム全体では、1対2の局面を作っても、完全に寄せきれない2人の間を突破される場面があった。サイドで相手に食いつくも、周囲の連動がないめに、数的優位を作り出されてしまう。奪いどころと見るや一気呵成にプレスでボールを回収するブラジルとは対照的で、破られる守備陣の後方に立った川島永嗣は、「球際は前半も後半も弱かった」と言い切った。いつも強気の長友佑都も、「すべてにおいて、レベルが違った」と認めざるを得なかった。 指揮官が指摘したように、開始早々の失点で、当初描いたプランが崩れたのは事実だろう。早期の得点は、ブラジルを重圧から解き放ち、余裕のプレーを許した。その余裕は個人で仕掛けるプレーの増加へとつながり、日本代表との個人の力の差の露呈につながった。 同じく後半開始3分での2失点目は、もはや致命的なものとなり、同じくアディショナルタイムの3分目にはダメ押し点を決められた。 「これが世界」 「収穫はない」 昨年の対戦でもDFとして悔しさを味わわされた今野泰幸は、何度もバッサリ切り捨てた。組織で対抗すべき日本が、個の破綻の連鎖で押し切られた格好だ。 ザッケローニ監督が指摘したように、ワールドカップ最終予選をドーハで戦った後という日程と移動の厳しさはあっただろう。だが、ブラジルへの過剰なリスペクトをザッケローニが、「ビビっていたか」と表現したように、メンタリティにも問題はあった。ハーフタイムに「うちもプレーしてみようと話した。チームに自信を植え付けるためにも、思い切ってやろうと話した」という指揮官のゲキが、実ることはなかった。 「1つ言えるのは、我々のチームはアウェーの厳しい戦いでも、自分たちのプレーを出していけるよう伸ばさないといけないということ」 今回のような完全アウェーでの戦いを強いられるかはともかく、最大の目標である来年のブラジルの舞台が、日本のホームではないことだけは確かだ。 この試合が1年後のステージへ向けての新たな第1歩であることを、次のイタリア戦で早急に示す必要がある。個の成長を訴える本田が語ってきたように、1年を短いと取るか長いと取るかは、選手たち次第だ。このショッキングな敗戦の活用法も同様である。 (文責・杉山孝/フリーライター)