柄本時生&今井隆文プロデュース!『錦糸町パラダイス』は街が主役のドラマ
言葉にしないまま一緒にいる関係
錦糸町を拠点に仕事を請け負う掃除屋「整理整頓」。メンバーは社長の木ノ本大助(賀来賢人)、大助の幼馴染の今井裕樹(柄本時生)と、二人のひとつ後輩の奥田一平(落合モトキ)の3人。裕樹は事故で車椅子生活を余儀なくされているが、メンバーのサポートもあり、彼らとともに仕事に取り組んでいる。 30分の中に、これまでドラマや映画ではあまり観たことがなかったけれど、きっと実際にはあるのだろうと思えるシーンがいくつもあった。たとえば裕樹が仕事先の夫婦の夫(板尾創路)と車椅子同士でちょっとだけ立ち往生するシーンだとか。渋谷のアプリ開発会社に呼ばれたとき、担当の平井(早乙女太一)が裕樹を見て大助に「なにか特別な配慮とかこちらでできることがあったら」とおずおずと聞き、大助が「お気遣い無用です」と答えるところとか。裕樹が床に落ちたきゅうりひとつ拾うのにも苦労することとか。取り立ててドラマティックに描かれるわけではないこんなささやかなシーンが限られた時間の中に入っていることに、ちょっとした感慨を覚えた。 裕樹の事故は大助と一緒にボールで遊んでいるときに起きた。大助は自分なりに責任を感じ、それゆえこの掃除屋を立ち上げた面もあるようだが、二人はとくにそこについて話し合っているわけではないらしい。回想シーンで、おそらく車椅子になったばかりの裕樹に何かを言おうとした大助。それを遮るように「それ言ったら、俺たち終わっちゃうよ?」と答える裕樹。肝心なことをあえて言葉にしないまま、彼らは日々を過ごしている。しないからこそ、過ごせているのかもしれない。
金曜夜の30分間、街を覗くような感覚
1話を観て感じたのは、街が主役のドラマということだ。オープニングでMOROHAの主題歌に合わせて映し出される錦糸町の街角、そこを歩く人々。本編が始まっても、人を取り巻く街そのものが目に入る。引きで撮られている画が多いせいもあるかもしれない。劇的なことが起こるわけでなく、掃除屋の3人をはじめとする錦糸町の人々が過ごす時間が淡々と映し出されるこのドラマを観ているうち、なんだか知らないところを散歩しているような感覚になって、それが心地いい。 2話では音楽アプリ会社のオフィスの仕事を請け負う「整理整頓」。社長の能(浅香航大)は大助と同じように幼馴染で会社を立ち上げたものの、うまくいかず解散。1話からところどころで出ていた錦糸町を舞台とする音楽フェスの実行委員長を能が務めていたり、1話で登場した平井がその会社を買収したことがわかったり、少しずつ登場人物がつながってゆく。 劇団年一の残り1人、岡田将生はルポライター・蒼として、黒尽くめの服で錦糸町をうろついている。いまのところかなり謎の多い役割だ。2話終盤では警察がフィリピンパブに突入し、蒼はその様子を写真に収めていた。急に不穏な展開が訪れたドラマの中の錦糸町。3話以降、どうなっていくのだろう。 ●番組情報 ドラマ24『錦糸町パラダイス~渋谷から一本』(テレ東) 企画・原案_柄本時生、今井隆文、太田勇 脚本_今井隆文、太田勇、石黒麻衣 監督_廣木隆一、太田勇、木ノ本浩平 出演_賀来賢人、柄本時生、落合モトキ、岡田将生 他 主題歌_MOROHA 『燦美歌』 Lemino、U-NEXTにて全話配信中(有料) ●釣木文恵/つるき・ふみえ ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。 ●オカヤイヅミ 漫画家・イラストレーター。著書に『いいとしを』『白木蓮はきれいに散らない 』など。この2作品で第26回手塚治虫文化賞を受賞。趣味は自炊。 Edit_Yukiko Arai
GINZA