センバツ高校野球 軌跡 作新学院/上 一人一人リーダー意識 「甲子園がない夏」経て成長 /栃木
第95回記念選抜高校野球大会(毎日新聞社、日本高校野球連盟主催)に出場する作新学院(宇都宮市)は昨夏、それまで10大会連続で出場していた甲子園を逃した。県内で「1強」とも言える強さを示していた同校は、「甲子園がない夏」を経て6年ぶりにセンバツへの切符を手にした。 2022年7月23日、夏の県大会準決勝。国学院栃木と対戦した作新学院は延長十回裏、相手の4番打者にサヨナラ本塁打を喫した。現在のチームで主将を務める磯圭太(2年)は守備位置の遊撃で立ち尽くしていた。「何が起こったのか分からなかった。目の前で先輩が泣き崩れている姿を見て、負けたことを実感した」。涙が止まらないまま、球場を後にした。 翌日。同市内の同校グラウンドで、3年生対1、2年生の「決勝戦」があった。家族やOBも見守る中、延長にもつれる接戦を制したのは3年生だった。11連覇に掛けて、小針崇宏監督と主将だった桜井叶翔は11回、胴上げされた。全員で肩を組んで小針監督が好きな長渕剛の「乾杯」を歌った。「俺たちの分までセンバツに行ってくれ」。桜井は下級生に思いを託した。 3日間の休みを挟み、新チームが始動した。小針監督が選手にまず伝えたのは、新型コロナウイルスの影響で中止となった20年、夏の甲子園で初戦敗退し、校歌を歌えなかった21年、そして22年の3年分の思いを背負って戦っていこうということだった。「今日からお前たちのチームだ。これまでと同じやり方では勝てない。自分たちで道を作っていくしかない」 一人一人にリーダー意識を持ってほしいと、小針監督は打撃や守備、走塁、ウオーミングアップや栄養管理など、各分野を取り仕切る「リーダー」の役割を2年生全35人に与えた。栄養係は、空腹の状態が続いている部員がいないように適宜声をかけ、ウオーミングアップ係は練習試合の相手によって準備の仕方を変えるなど、試行錯誤を重ねている。磯は「それまでは練習をやって満足していた部分があった。新チームではどうすればうまくなるか、一日一日収穫を見つけるようにしている」と話す。 マネジャーの鈴木駿太郎(2年)は、昨夏の県大会準決勝で「序盤から球を捉えられていたので嫌な雰囲気だなと思っていたが、それを言うことができなかった」と後悔した。新チームでは、「嫌われてもいいので、チームのために良い悪いをしっかり言おう」と決意。秋季県大会決勝では失策が多かった状況に、「気が緩んでいて、スタンドのみんなに申し訳ないぞ。決勝の試合じゃない」と厳しく鼓舞。その時は小針監督にも「成長したな」と言われ、「夏の反省を生かせた」と少し気持ちが晴れた気がした。 9月の秋季県大会では準決勝、決勝ともに逆転勝ちし、2016年以来となる優勝をつかんだ。10月にあった関東大会では、初戦は無失点でコールド勝ち。2回戦で、準優勝した専大松戸(千葉)に敗れたが、1点差の接戦だった。磯は「一人一人が責任感を持って動けるようになってきたが、まだ力が足りない。練習で追い込んで戦い抜く集中力をつけ、3年生の分まで戦っていきたい」と成長を誓う。【鴨田玲奈】 ◇ 第95回記念選抜高校野球大会に、県勢は作新学院と石橋の2校が出場する。両校の選出までの歩みをそれぞれ2回にわたって紹介する。