自分は絶対悪くない…「仕事ができないのは上司のせい」と言う「責任転嫁の達人」の実態
部下に責任を押しつける上司
逆に部下に責任を押しつける上司もいる。というか、そのほうが多いかもしれない。たとえば、大手の広告代理店で部長を務める50代の男性は、やたらと会議を開きたがり、終了時間を気にせず自分の感覚でダラダラとしゃべる。厄介なことに、部長の提案に対して部下が少しでも批判したり反対意見を述べたりすると、とたんに機嫌が悪くなり、感情的になって攻撃する。 そのため、部下は賛成するしかなく、会議は部長の提案や意見を追認するだけの場になっている。もっとも、賛成したらしたで、困ったことになる。あるとき、部長が会議で熱心に提案した企画をもとに制作した動画を流したところ、それが炎上して、クレームが殺到した。クライアントからも「なぜこんな動画を作ったのか」という声が代理店上層部に届いたらしく、役員が部長に事情を尋ねた。 すると、部長は役員に「会議で、○○という部下が強引に推し進めたんです。部下の戦略ミスです。私は『大丈夫か?』と疑問を投げかけたんですが……」と言い訳して、部下に責任転嫁したという。 ○○と名指しされ、責任を押しつけられた部下としては、「部長が提案したんじゃないですか。僕らは賛成するしかなかったから、そうしただけなのに、こっちの責任にされたら困ります」と言い返したかった。しかし、形だけにせよ賛成したのは事実なので、何も言えないまま泣き寝入りするしかなく、その後極度の人間不信に陥って、精神科を受診しカウンセリングを受けるようになった。 もしかしたら、部長は部下に連帯責任を負わせるために、会議を開きたがり、その場で全員が賛成するように仕向けているのかもしれない。とすれば、批判や反対意見に過剰反応し、感情的になって攻撃するのは、自分の思惑通りにいかなくてイライラするからだと考えられる。 部下への責任転嫁は、もちろん自己保身のためだろう。現在の地位や収入などへの執着も、それを失うことに対する喪失不安も強いからこそ、わが身を守るために、部下に平気で責任を押しつける。 わが身を守りたいという願望は誰にでもあるはずだ。これは、人間が動物であり、あらゆる動物に防衛本能が備わっている以上、仕方がない。だが、防衛本能に由来する自己保身の欲求ばかりが強くなりすぎると、わが身を守るためなら何でもして、罪悪感も良心の呵責も覚えない自己中心的な人間になりかねない。こういう人間は責任転嫁の達人であり、自分の非は棚に上げ、悪いことはすべて他人のせいにする。 現在の日本社会では、指導的立場にある政治家や企業のトップが、何か問題が起きるたびに「自分は悪くない」と主張し、その根拠を並べ立てる。それだけでなく、他人や別の組織に責任を押しつけようとするのも日常茶飯事だ。責任転嫁の達人ほど出世するという印象を与えることさえあるので、それを見習う人が増えてしまっているのは当然かもしれない。 つづく「どの会社にもいる「他人を見下し、自己保身に走る」職場を腐らせる人たちの正体」では、「最も多い悩みは職場の人間関係に関するもので、だいたい職場を腐らせる人がらみ」「職場を腐らせる人が一人でもいると、腐ったミカンと同様に職場全体に腐敗が広がっていく」という著者が問題をシャープに語る。
片田 珠美(精神科医)