【神戸・宮代大聖が天皇杯の殊勲弾を決めながらも喜びが小さかったわけ(1)】「与えられた時間でどれだけ自分が結果を出せるか」と話す意識がもたらすもの。神戸の強さの“循環”の一員に
ヒーローの言葉とは思えぬほど、落ち着いた話しぶりだった。その主は、宮代大聖だ。2024年11月23日17時9分の、国立競技場のミックスゾーンでのことである。 ■【画像】「アイデアすご!」「レベルたっか」天皇杯決勝での神戸&G大阪の「ハイレベルなコレオ対決」■ 天皇杯のタイトルを懸けたガンバ大阪とのファイナルの舞台で栄冠をもたらしたのは、背番号9が決めたゴールだった。5万7千人以上の観衆の視線を一身に浴びただけに、高揚感のある言葉を得られるかと思って率直な気持ちをまずは聞いたが、その答えは「自分が点を取れましたけど、本当にチームで取ったゴールだと思う」というもの。自分を誇るのではなく、周囲を立てた。 その宮代が話すように、後半19分のゴールはたしかにチームで取ったゴールではあった。 GK前川黛也が最前線に蹴ったボールに後半途中出場の佐々木大樹が反応。相手DFを背負いながらなんとか残すと、それを大迫勇也が回収し、左を猛然と縦に走る武藤嘉紀へとつなげる。ペナルティエリアに勢いよく侵入した背番号11が中へと折り返したボールをG大阪の選手がなんとか弾いたかに見えたに見えたが、そこに詰めていたのが宮代。目の前でバウンドするボールを、冷静に右足で押し込んでいた――。 このように、前川、佐々木、大迫、武藤に宮代と5人が絡んで奪ったゴールではあったが、最後にスコアへと結びつけたのは、宮代の走り続ける姿勢と嗅覚があったからと考えれば、もう少し、自分を誇ってもいのではないか、と感じざるを得なかった。
■宮代大聖「与えられた時間でどれだけ自分が結果を出せるか」
宮代は今季、決意の移籍をしていた。川崎フロンターレには下部組織から所属し、プロ入り後はレンタル移籍で3チームに所属してきた。しかし、ヴィッセル神戸への移籍は退路を断っての完全移籍。大迫勇也、武藤嘉紀ら強力なタレントを前線に抱えるチームに身を置いていた。 そんな2人について聞いた答えの中に、宮代が冷静に自身を捉える理由の一端があった。 「もちろんチーム内の競争もありますし、スタメンが確約されているわけでもないです。その中で与えられた時間でどれだけ自分が結果を出せるか、それがチームにとって非常にいい流れになっている。チーム内競争が激しくなることはすごいプラスだと思うので、そこは自分だけじゃなく、ヴィッセル神戸全員がそういう意識で戦っているのが今の強さの要因だと思います」 激しいチーム内競争があるゆえに、少しも気を抜けない。そんな声が聞こえるようだった。 宮代自身がその競争を活性化させ、リーグ2連覇を狙うチームの原動力となっているのだが、「優勝」の2文字はまだ手にしていない。神戸は現在、J1リーグの首位に立ってはいるが、残り2試合という状況でサンフレッチェ広島との勝点差は3。優位ではあるが、確定しているわけではないのだ。 そして何より、優勝が決まるピッチに立てるかどうかは、そのチーム内競争に打ち勝たなければいけない。 実際、この取材時に宮代は何度か「まだJリーグがある」と発言。リーグタイトルへの意欲を強く示していた。 そんな言葉を聞いて思い出したのが、昨年の川崎フロンターレでの最後のリーグ戦後のことだった。宮代は、駅前不動産スタジアムのウォーミングアップゾーンでもリーグタイトルへの思いを語っていた――。 (取材・文/中地拓也) (後編へつづく)
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