危険なインプラント詐欺が…「健康な歯まで抜いて治療せず」 “負債総額19億円”の悪辣な手口に警察も捜査を開始
「食べ物がロクにかめず、ほとんど飲みこむしかない状態」
若干心が揺らぐも、すでに男性の手元に資金は残っていなかった。話を詳しく聞く前に断ったのだが、高橋氏は「500万円ならどうですか?」と、しつこく食い下がったという。 その後の手術で、4本の人工歯根を埋め込み、仮歯をかぶせるところまで終了。治療を順次進める予定だったが、男性のカルテを見ると、まともな治療は施されていないことが読み取れる。昨年夏以降は連絡もまともに取れなくなったそうで、心配になった男性がTDOを訪ねるも、高橋氏は、 「私の口からは何とも言えません」 そう繰り返すばかりで、年が明けると閉院状態になってしまったというのだ。 「お金も戻ってきませんし、治療も中途半端。入れられた仮歯は全然サイズがあっておらず、かみ合わせが悪いのか喋りにくい。食べ物がロクにかめず、ほとんど飲みこむしかない状態でしたので、食事の量もめっきり減りました」(男性)
19億円の負債が…
さらに、被害は治療費にまつわるケースだけにとどまらない。高橋氏は「歯科器材購入費」などと称し、狙いを付けた患者から金を借りては踏み倒している。ある高齢女性は老後の備えとしていた貯金4000万円以上をだまし取られ、返済を迫ると「あなたたち、年金で暮らせるでしょ」と突っ張ねられたという。 こうした被害の拡大を受け昨年7月、TDOの出資者を名乗る人物や有志が中心となり、30名ほどの被害者を集めて説明会が開催された。そこで高橋氏は被害者らに、自身が金銭トラブルを抱えており、治療を継続するだけの金銭的な余力がないことを一方的に通達。この会である被害女性から「あなたは詐欺を働いたんですか?」と問われると、「そうなります」と認めている。先に述べた通り、TDOは今年1月から閉院状態になっており、すでに複数の被害者が千葉中央署に被害届を出している。 ある被害者に対して担当刑事は「うちの署としては一番大きな事件として扱っている」と語り、詐欺での立件を目指しているという。 今月8日、多数の被害者に「破産管財人就任のご連絡」と題された通知が届いた。それによると、 〈上記破産者(註:高橋氏のこと)は、約366名の債権者に対して合計約19億円の負債を有して支払不能である〉 として、6月26日に千葉地裁で破産手続開始決定が発令されたという。債権者の内訳ははっきりしないが、その大半はTDOの患者だと考えられる。自己破産によって、高橋氏は自らの患者たちから逃げ切りを図るつもりなのか。 7月15日、事実関係を確認すべく、高橋氏が現在働いている某歯科クリニック(都内)から出てきたところを直撃した。だが、こちらが名乗った途端、見向きもせずに彼は足早に歩き出した。5分ほど問いかけながら並んで歩くも終始無言。商業施設のトイレに逃げ込んだきり、籠城を決め込んでしまった。 後日、改めて、破産管財人に問い合わせると、こう回答が。 「就任したばかりのため、状況を把握しきれておらず回答は差し控えます」 7月25日発売の「週刊新潮」では、他の被害患者の証言と併せて、詐欺インプラント治療の手口と破産劇の舞台裏について詳しく報じている。
「週刊新潮」2024年8月1日号 掲載
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