暗い内面さえ“さらけ出す”「フェティコ」 退廃的で陰気な世界から共感を生み出す
しかし舟山デザイナーは、「『アダムス・ファミリー』のウェンズデーは、キラキラした可愛い女の子たちとは何もかも違った。自分のスタイルを貫く彼女は、残酷で陰湿なのにどこかチャーミングで魅力的。人と異なることを恐れない強さを教えてくれた」と語り、「好きなものを大切にすることは、自分自身を大切にしていることと同じ。好きなことに素直な自分は、より愛しく思える。お気に入りと共に人生を歩むことは、何より幸せなことだから」と続け、これまでの「フェティコ」で発信してきたボディ・ポジティブに通じる価値観を投げかける。余談だが、ウェンズデーは今、ネットフリックスのオリジナルドラマで主役としてリメイクされている。舟山デザイナーが言う、「自分のスタイルを貫く彼女は、チャーミングで魅力的。人と異なることを恐れない強さを教えてくれた」と感じ、発信するのは、ファッションの世界に限らないということなのだろう。
そして、そんな思いは、間違いなく伝わった。おそらく、「フェティコ」のショーを見た人は誰もが、舟山デザイナーのダークな一面を感じ取っただろう。ゴシックな十字架のモチーフを肌見せのカットアウトで表現するコレクションは、真っ白い肌に黒リップ、ベルベットのリボン、フェティッシュなレザーチョーカー、そして葬列を思わせるブラックレースも手伝い、なかなかに暗い。元来、着る人間も見る人間も高揚させるはずのファッションの世界では、チャレンジングだ。しかし「フェティコ」の思いを知っている人は、今回のコレクションをこれまで以上に、彼女のパーソナルな語りかけと感じるだろう。よりパーソナルで内面に迫っているからこそ、いつも以上に共感するのかもしれない。
そして、そんな人には、挑戦したくなる「フェティコ」の新しいスタイルが待っている。ボディスーツやジャンプスーツはドレープが美しいベルベットやキュプラと組み合わさってドレスへと生まれ変わり、ベルベットのリボンは首元や肩口を彩り、得意のテーラードのバリエーションをさらに押し広げている。ランジェリーウエアはコルセットによってモードな印象を強め、大きな襟はシンプルなドレスに存在感をプラスした。ミニだけではなくマキシ、ボディスーツだけではなくドレス、レースだけではなくベロアなど、「フェティコ」の世界を着々と押し広げている。