「ゴルフってそんなもんですか?」と寂しく言ったのは10年前だった 五輪に懸けた松山英樹の胸の奥底
◇パリ五輪 男子 最終日(4日)◇ル・ゴルフ・ナショナル(フランス)◇7174yd(パー71) 【画像】松山英樹の首に銅メダルがかかる瞬間を激写! 学生時代、制服姿でスタジアムに向かうのが憂うつだった。松山英樹が中学・高校時代を過ごした高知県の明徳義塾。全国屈指のスポーツ強豪校ではかつて、甲子園の常連でもある野球部をはじめ、いくつかの部活動の試合でいわゆる“全校応援”が実施され、他の部の生徒にも参加が半ば義務付けられていた。 会場に出向いてクラスメートに声援を送った傍ら、ゴルフ部がコースで同じように応援されないことが当時、松山には不満だった。1年時に「全国高校選手権」で4位、2年時には全国制覇を達成。それでも他の部活動と同じようには見られない。あらゆるスポーツの中でのゴルフの立ち位置、その現実を早くから痛感していた。 東北福祉大を卒業し、PGAツアーに本格参戦した2014年6月。「メモリアルトーナメント」で初優勝を飾る快挙を遂げた約2週後のことだ。出場した「全米オープン」の裏で、ブラジルで開催されていたサッカーワールドカップに沸く世間を横目に、22歳だった松山はため息交じりに言った。「どうして、ゴルファーは他のスポーツ選手を応援してばかりなんですか?」 報道陣から誰ひとり面識のない日本代表チームへのエールや試合の感想を求められ、ただ辟易(へきえき)していたわけではない。ゴルファーは他のプロアスリートと同じ扱いを受けているだろうか、という疑念が胸の奥底にはいつもあった。「(逆に)野球選手や、サッカー選手が『ゴルフを見てこう思った』という記事を僕は見たことがない。ゴルフって、そんなもんですか…」。言葉には寂しさが漂った。
日本で男子ゴルフはマイナースポーツに過ぎないのか。プロゴルファーの嘆きともいうべきそんな思いも、松山にとってはキャリアの原動力であり続けた。反骨精神をむき出しにして世界最高峰のツアーで11年にわたって奮闘。メディアの前で都度、笑顔を振りまけるような器用さは持ち合わせていない。存在意義を示すには、好結果を残すほかに手がなかった。 2021年の「マスターズ」制覇をはじめ、快挙を重ねるたびに「日本のゴルフ界が変わること」を期待した。あらゆるスポーツで世界一を目指すのが当たり前になった時代、ゴルフが“さらに”後れを取るわけにはいかない。松山英樹は人生をかけたスポーツの、プロゴルファーとしての誇りをずっと守り続けてきた。そんな人だ。 待望の五輪メダルは、生涯を通じて具現化したかったものの手助けになるかもしれない。日本の日曜夜、ゴールデンタイムにパリでの激闘を眺めた人々の中には普段、野球やサッカーしか見ない人もいただろう。ブロンズカラーの新たな勲章には、これまでにつかみ取ったいくつもの優勝トロフィーとも、グリーンジャケットとも、また違った輝きがきっとある。(編集部・桂川洋一)
桂川洋一