朝ドラ『虎に翼』寅子のモデルとなった三淵嘉子さんの家族構成と家庭環境とは?
NHK朝の連続テレビ小説『虎に翼』第2週では、「共に地獄をいく同志」として明大女子部法科の学生らが新たな一歩を踏み出す様子が、1人の女性の裁判を通じて描かれた。そして、主人公の猪爪寅子(演:伊藤沙莉)と法律を学ぶ個性豊かな学生らは、それぞれ学校外での自分の在り方に思うところがあるようだ。 ■それぞれの立場や家庭環境が抱える苦しみ 華族令嬢の桜川涼子(演:桜井ユキ)は、家で“令嬢らしさ”を求められる抑圧された環境にいる。また一番年長で既婚者の大庭梅子(演:平岩 紙)は夫と息子から蔑まれ暴言を吐かれている。朝鮮からやって来た崔香淑(さいこうしゅく/ハ・ヨンス)も両親や慣れ親しんだ故郷から遠く離れた身であり、寂しさを滲ませるシーンが印象的だった。そして山田よね(演:土居志央梨)も、苦学生なのかカフェーで働いているようだ。 一方寅子を見てみると、確かに金銭面だけでなく家庭環境にも恵まれている。父の直言(なおこと/演:岡部たかし)は帝大卒で銀行勤めのエリートで、娘を溺愛し先進的な思想で寅子の夢を真っ先に応援した人物だ。まさに“良妻賢母”を体現する母のはる(演:石田ゆり子)は、最初こそ寅子に「女性としての幸せ」を求めてお見合いを勧め続けたが、最終的には寅子の覚悟を知って六法全書を買い与えてくれた。兄の直道(演:上川周作)もおおらかで妹をからかいながらも大事にしている様子であるし、その妻となった花江(演:森田望智)は元々寅子の親友だった(彼女もまた嫁としての苦しさを抱えていそうだ)。 裕福な家庭に生まれ育ち、理解ある家族に見守られて法の道を突き進む寅子が今見えていない“女性の苦しみ”が、今後物語を動かしていくようだ。 では、モデルである三淵嘉子さんの家庭環境はどうだったのだろうか。まず、父・武藤貞雄さんが台湾銀行勤務のエリートであり、海外勤務を経験していることもあってかかなり先進的な思想の持ち主だったことはドラマの通りである。嘉子さんに対して、職業婦人として自立することを勧めていたらしい。当時は医師も候補になっていたそうだ。 母のノブさんもまた、最初こそ嘉子さんの明大女子部進学について「嫁の貰い手がいなくなる」と大反対していたが、貞雄さんの説得もあって後に良き理解者となった。 ちなみに嘉子さんには兄ではなく4人の弟がいた。2歳下の長男一郎さんは横浜高等商業学校(現在の横浜国立大学経済学部・経営学部)卒業後、日立製作所に入った後に出征し、妻子を残して戦死。7歳下の次男輝彦さんは後に東京帝国大学文学部(現在の東京大学文学部)を卒業し、昭和化工重役を経て日本煙火協会専務理事となった。9歳下の三男晟造さんは医師に、そして14歳下の泰夫さんは林野庁の職員になって活躍したという。 寅子も、そしてモデルだった嘉子さんも、当時の時代背景を鑑みても非常に恵まれた環境で育ったことが法曹界への道を後押ししたことは間違いない。しかし、女性が高等教育を受け、社会で活躍することに対する理解がない時代にその地獄を選んだ(選べる環境だった)からこその苦しみや葛藤があったこともまた事実であろう。 かつて嘉子さんをはじめ多くの女性が闘ったその軌跡が、今後ドラマで描かれていく。寅子やその同級生たちが、自分の抱える“生きづらさ”をどのように乗り越えていくのか注目したい。 <参考> ●明治大学史資料センター「三淵嘉子(みぶちよしこ)―NHKの連続テレビ小説(朝ドラ)の主人公のモデルとなった女子部出身の裁判官―(法曹編)」 ●神野潔『三淵嘉子 先駆者であり続けた女性法曹の物語』(日本能率協会マネジメントセンター)
歴史人編集部