【何が】二階氏“世襲”息子に出馬要請の舞台裏「長男か三男か」「世耕氏へのけん制」地元有力者の思惑
和歌山県町村会は24日、自民党元幹事長の二階俊博氏(85)の三男・伸康氏(46)に、次期衆院選の新和歌山2区の候補者として出馬するよう要請書を手渡した。裏金問題や世襲に対する批判も渦巻く中、なぜ二階氏の息子に出馬要請したのか、そもそも町村会という自治体の協議会が出馬要請をした背景には何があるのか。舞台裏を追いました。(報告:神田貴央、三宅直、髙橋克哉)
■三男の伸康氏は出馬の明言避けるも…町村会長に「命を懸けてやる」
4月24日、和歌山県中部に位置する印南町役場の一室。和歌山県町村会長の岡本章・九度山町長をはじめ、数人の首長が集まる中、神妙な面持ちで現れた伸康氏。父親である二階氏を長年にわたって公設秘書として支えてきた。 要請書を受け取った伸康氏は、「私のような者に対して(町村会が)全会一致で出馬要請をいただいたのは、重く受け止めなければならないと考えている」と話す一方、「私自身は二階代議士の秘書という立場。この場で私の一存のみで重要な決定はできかねる」と話し、出馬するかどうかの明言を避けた。 しかし、心は決まっているとみられる。岡本会長は出馬要請を決定した23日の会見で、伸康氏に推薦の話を持ち掛けた際、「(伸康氏は)町村会から推薦をいただけるのであれば、命を懸けて(選挙を)やるという話をいただいた」と伸康氏が出馬の意向を示していたことを明らかにしていた。
■選挙の情勢を左右する“町村会” 背景に世耕氏へのけん制
町村会は和歌山県内の21人の町村長で構成されている。普段は税制や経済政策に関して国への要望などを行う一組織が、なぜ出馬要請を行ったのか。 そこには、和歌山県特有の環境が存在する。いくら「保守王国」といえども、無党派層が多い都市部では、非自民の首長や議員が多く存在する。おととしの県知事選では国民民主系の岸本周平氏が当選。県庁所在地の和歌山市を含む現和歌山1区では、去年の衆院補欠選挙で、自民元職候補を抑えて維新の新人候補が勝利した。 他方で、町や村に絞って焦点をあてると、ほぼ全ての首長が自民系だ。過疎に悩む地域は財政規模が小さく、高速道路の建設をはじめとした公共事業など“国のおカネ”に依存する度合いが高い。「国の予算をいかに和歌山県に引っ張れるか」は選挙では重要な要素となる。政権与党である自民党1強の状態が続き、各地域の自民系首長は強力な集票力を持ち、その集まりである町村会は選挙で情勢を左右するほどの力を持つ。 さらに町村会は、同じ和歌山選出の世耕弘成・前自民参院幹事長よりも、二階氏と深い関係を持つ。二階氏は『国土強靭化』を訴え、実際に和歌山県内で高速道路の建設を進めるなど過疎地の要望をより多く実現してきたからだ。2年前の県知事選では、世耕氏が選んだ候補の支援に真っ向から反対し、県連による推薦の決定を覆した。世耕氏の影響力拡大を抑えたい、二階氏の意向をくんだとみられている。 現在、世耕氏は裏金問題で離党し無所属となっているが、難敵の二階氏が不在となった和歌山2区は鞍替えを狙いやすい環境だ。これに対し、岡本会長は「出馬要請の決定にあたって、二階氏とは話していない」としながらも、「世耕氏は自分が首相になるために、鞍替えを考えているのではないかと疑問を抱かざるを得なかった。会議でも候補には上がらなかった」と述べた。 伸康氏への出馬要請は、町村会の総意を示し、世耕氏の動きをけん制する狙いもあるとみられる。