d4vd──Z世代に絶大な人気を誇る18歳が語るクリエーション
ゲーマーからミュージシャンに転身したシンガーソングライター、d4vdが『GQ JAPAN』に登場。今年7月、音楽フェスティバル「フジロックフェスティバル '23」に出演した彼に話を訊いた。 【写真を見る】そのほかの写真をチェック!
米・テキサス州ヒューストン出身のシンガーソングライター、d4vd(デイヴィッド)は、現在18歳。今年5月にデビューEP『ペタルズ・トゥ・ソーンズ(Petals to Thorns)』、9月にはセカンドEP『ザ・ロスト・ペタルズ(The Lost Petals)』をリリースし、シングル曲「ロマンティック・ホミサイド(Romantic Homicide)」はSpotifyジャパン・バイラルチャートで1位を獲得するなど、飛ぶ鳥を落とす勢いの新人アーティストだ。 ミュージシャンになる前は、プロのゲーマーを目指していたというd4vd。オンラインゲーム「フォートナイト(Fortnite)」のモンタージュ動画をYouTubeに投稿していたところ、既存の音楽を動画内で使用していたため、著作権侵害で動画が削除された。母親に相談すると、「じゃあ、自分で音楽を作ればいいじゃない」と言われ、スマートフォンとヘッドホンを持って妹のベッドルームにあるクローゼットにこもった。 音楽制作アプリ「バンドラボ(BandLab)」をダウンロードして作った楽曲を投稿すると、すぐにバズった。スマホを用いてクローゼットで作ったという『ペタルズ・トゥ・ソーンズ』は、インディロックやR&B、ベッドルームポップといったセンシュアルなサウンドに、d4vdの憂いのある歌声が乗った作品だ。こうした稀有なバックグラウンドをもち、Z世代に絶大な人気を誇る彼が、インスピレーションや曲作りについて語った。 ──初めての来日ですね。今回の滞在で、印象に残っていることを教えてください はい、小さな頃からこの瞬間を待っていました。日本は、アニメやミュージックビデオを観てずっと憧れていた世界でしたから。フジロックでパフォーマンスをして、お客さんが私の音楽をじっくりと聴いてくれていたのが最高の思い出です。リスペクトを深く感じました。 ──これまでにリリースした曲やMVは、日本のアニメにインスパイアされていると聞きました。いまでもアニメは観ていますか? もちろんです。いまは『モブサイコ100』『呪術廻戦』『鬼滅の刃』『東京喰種』をよく観ていますよ。純粋に楽しんでもいますし、作曲やクリエイションのインスピレーションでもあります。 ──デビューEP『ペタルズ・トゥ・ソーンズ』には、インディロックやR&Bなど、さまざまなジャンルの曲が収録されています。小さな頃はどんな音楽が家で流れていましたか? ジャズとゴスペルがよくかかっていました。チェット・ベイカー、エラ・フィッツジェラルド、フランク・シナトラなどの偉大な音楽家たちです。母親が敬虔なクリスチャンなので、そういったクラシックな音楽がよく流れていました。ポップミュージックやラップを初めて聴いたのは13歳の頃です。同級生がリル・パンプの「グッチ・ギャング」をスクールバスで流しているのを聴いて、家庭では聴いてこなかった音楽ジャンルへの扉が開いたのです。 ──ミュージシャンとしてやりがいを感じることはなんですか? オーディエンスの反応です。単に自分を表現するために音楽を作っていたら、その音楽がほかの人の人生に影響を与えていた。そんな事実にただ感動しています。自分と似たような経験や同じ考え方をもつ人が、僕の音楽を聴いて、心を揺さぶられたり、感情を共有できたりすることに驚いています。 ──楽曲「ヒア・ウィズ・ミー(Here With Me)」はTikTokで100万回以上使用されています。TikTokと音楽のつながりについて教えてください これまでに「Vine」や「Musically」といった動画共有アプリを使ってきましたが、そのなかでもTikTokは音が重要なプラットフォームです。同じような動画でも音楽のクオリティが高いものや、ビデオとの親和性の高い音を使った動画がバズります。「ヒア・ウィズ・ミー」がバズって、個人的にも動画を作ってTikTokにアップロードしていますが、いまだにバズり方はわかっていません(笑)。 ──『ペタルズ・トゥ・ソーンズ』に収録されている曲のほとんどは、スマホと音楽制作アプリのバンドラボを使って制作されたそうですね。最近の曲作りについて教えてください いまでもバンドラボを使っていますよ。じつは滞在中の東京のホテルで、バンドラボを使って2曲ほどつくりました。また最近は、スタジオでプロデューサーと一緒にインストを作っているので、ボーカリストとしてだけではなく、プロデューサーとしてのd4vdの世界観も強まりました。それに、去年からはボイストレーニングも始めました。最近作っている曲はボーカルとしての力を試される曲が多いですし、ライブパフォーマンスも増えたので、ボイトレは必須です。 ──バンドラボや音楽制作アプリは音楽の可能性を拡げたと言えますね 音楽制作ができるプラットフォームが、多くの人にとって、もっと身近なものとして広まっていることは素晴らしいです。10年前や15年前は、音楽を作るためには高価なソフトウェアやスタジオ、楽器が必要でしたが、いまは無料アプリで作曲できます。その一方で、音楽が飽和状態になり、また、トレンドの移り変わりも早まり、実力をもった天才的なアーティストたちが、AIによって作られたような音楽の陰に隠れてしまうのも悲しいですね。 ──日本に住む同世代の若いクリエイターたちへアドバイスはありますか? 私のクリエイティビティやインスピレーションの9割は、日本から来ていると言えます。アニメや映画のサントラ、J-POPやJ-ROCKのメロディなどは音楽的にとてもユニークです。また、アニメ、ひいてはものづくりに関して言うと、その作品に対する献身的な姿勢や真摯なこだわりには目を見張るものがあります。日本に住んでいると、そのユニークさに気づかないこともあるかもしれませんが……。 また、国や文化にかかわらず、クリエイターたちは自分を自分たらしめるユニークさを見つけて、それをそのまま表現するのが大切です。ただ僕が言えるのは、トレンドや流行りを少し取り入れることで人々に気づいてもらえる、ということです。人間は未知のものに恐怖心を抱きますからね。人々に気づいてもらい、少しでもファンを得ることができたなら、そこからは自分のユニークさを100%、自由に表現してほしいです。
文・篠原泰之 写真・大町晃平(W)スタイリング・YUI NODA ヘア・RYUNOSHIN TOMOYOSE