「もう二度とカンボジアに行く機会はないでしょう」身に覚えのない罪で突然逮捕された飲食店チェーン経営男性の独白
常態化しているトップダウンの汚職
アジアが誇る経済大国・日本としての自信を実感したことのある世代には充分理解できる想いだろう。特にカンボジアはポルポト独裁政権から初の民主政権への移行に日本がPKOなどで多大な援助と貢献をしてきた国だ。 当時の明石康国連事務次長もカンボジア暫定統治機構代表として国際社会から脚光を浴び、国際ボランティアとしてカンボジアに移住していった日本人青年も多かった。 しかし、10年が経ちある程度の達成感と経済環境の変化もあって店を現地社員に譲渡し帰国を決めた直後に、彼が抱いていたカンボジアへの美しい博愛精神が見事に崩壊することになる。 その日の午後、突然警官に囲まれ、帰国便への搭乗を待っていたホテルから近くの警察署にまったく訳の分からぬまま手錠をはめられ連行されたのだ。そして悪臭漂うタコ部屋で床は冷たいコンクリートの拘置所へ。ここに服のまま段ボールの上で眠れぬ夜を3泊した。日本語のわかる警官が来て署長と話すと返ってきた答えは「ああ、またそのパターンか。僕らを恨まないでほしい。僕らは上の指示で捕まえるのが仕事だから。大丈夫、裁判所にお金を払えば出られるよ」と優しく答えたという。 この会話から見えてくるのは、司法関係のトップクラスが絡んでいる汚職で下っ端警官の賄賂目当てじゃない、という構図だ。トップダウンの汚職でしかも常態化している事を明白に示している。 その後彼は弁護士などを介して裁判所から高額な金銭要求を突きつけられた。つまり検察官や裁判官が「金を払わないと出さないぞ」、と脅して来たのだ。しかし、刑務所に入れられどうやって金を工面しろというのか?いくら欲しいのか?金額も刑期もわからぬまま藪本はプノンペンの刑務所で過酷で不安な日々を過ごしたのだ。 次回記事『刑務所で肛門の中まで検査、賄賂の金額調整に1か月半…カンボジアで突然逮捕された男性の想像を絶する屈辱の日々』へ続きます。
鈴木 譲仁(ジャーナリスト)