パートの「時給2000円」は空想か
調査機関「しゅふJOB総研」(東京都新宿区)は「もし家庭の制約がない場合、主婦層が最も望む雇用形態は」という調査(※)を発表しました。研究顧問として調査を行った川上敬太郎さんに聞きました。【聞き手・須藤孝】 【写真】通勤する人たち ◇ ◇ ◇ ◇ ◇時給2000円 ――パートの時給2000円を提唱されています。 ◆社会には、「パートで主婦だから時給は安くてもよい」というイメージがあります。高度な仕事をしていてもパートだから(最低賃金の)時給1000円前後ということが起きています。 2000円は、正社員の時給になおしてみれば、特別高いわけではありません。パートであるために不当に単価が下げられている人がいます。 パートだから時給が低くて当たり前という暗黙の了解があると、そこから抜け出すのは大変です。 時給1000円で年収100万円前後の人が、時給2000円になるなら、年収の壁で就労調整をする意味はなくなります。こうしたアプローチも大切なはずです。 ――時給2000円に驚く必要はないのですね。 ◆時給2000円と言うと、空想的であるとか、特殊な人の話と言われますが、そうではありません。週3日でも、あるいは1日4時間でも、時給2000円でも、3000円でも見合う仕事ができる人は、それなりの数でいます。ポイントは正社員が担っているコアな業務をうまく切り出せるかどうかです。短時間勤務でもそれが担えるスキルを持った人は少なくありません。 会社からすれば労働力を活用できていないことになりますし、働き手からすれば自分のキャリアを発展させたり、継続させたりするチャンスが失われているのです。 時短で働きたいと言う人には元人事部長や元経営者の方もいます。年収3000万円だった元社長もいました。そうした人たちが扶養内で働きたいと言う時に、本当にそうなのかは、よく見る必要があります。 ◇先入観 ――「女性ならでは」「女性向け」という言葉が当たり前に使われる社会です。 ◆年収の壁も、パートも「女性の問題だ」ということも含めての先入観です。女性の状況が特殊なのはその通りです。だから女性に注目するのですが、同時に仕事だけに専念できている男性も特殊だということをセットで見る必要があります。 女性が特殊だと言う時に、男性は普通だとなりがちです。しかし、女性が特殊な時は男性も特殊なのです。 正規、非正規という言い方も同じです。今の正社員は働かせ放題の特殊な存在です。非正規という言葉があるのは正社員が標準だと思っているからです。その意味で非正規という言葉は差別的です。 男性、あるいは正社員を中心にみることから、女性やパートを考えていませんか、ということです。 ――頭を切り替えるのはなかなか難しいことです。 ◆私自身も頭ではわかっていたつもりでしたが、この4年ぐらい主夫を実際にやって、やっと実感できるようになりました。 ――「しゅふ」は、主婦と主夫の両方をさすだけの意味ではありませんね。 ◆主婦は女性が圧倒的多数だけれども女性だけの問題ではない、との考え方に共感してしゅふと使っています。家のことの主体である人の意味です。 最初は主婦という言葉はいずれなくなると思っていました。女性だけが家のことをする考え方はおかしいから、男性が参加するようになれば主婦の概念はなくなると思っていました。 しかし、調査をしてきて逆だと思うようになりました。家のなかのことをする人とみれば、絶対になくなりません。 ですから、全員がしゅふになるイメージが本来の姿です。「1億総しゅふ化」と言っています。 実際にはぜんぶやりたい人も、まったくやりたくない人もいるでしょう。そのうえで、自分も家のことについて主体になる意識を持つことが大事です。(政治プレミア) ※ “年収の壁”よりも強固な壁 もし家庭の制約がない場合、主婦層が最も望む雇用形態は? 1位「フルタイム正社員」43.3%