《連載:いばらき 減少時代を生きる》第5部 継承(上) 子に頼らず墓じまい 合葬や散骨、選択肢に
茨城県水戸市郊外に立地する市営の大規模墓地、浜見台霊園。7000を超える区画に墓石が整然と並ぶ。その中を同市双葉台の男性(74)が先祖代々の墓ではなく、他の複数の遺骨と一緒に埋葬する合葬式墓地に向かった。 霊園入り口付近に2023年に完成した。中央に祈念碑となる黒御影石の球体モニュメントがあり、利用者が静かに手を合わせる。 合葬式墓地には男性の父が眠る。自前の墓地はあったが、元の墓を撤去し、更地に戻して「墓じまい」した。2人の子は既にそれぞれ家庭を持ち、県外に住む。「息子たちには息子たちの人生がある。草むしりなど、墓のことで負担はかけたくない」と選択した理由を話した。 市によると、12年当時、個別の墓地使用希望待機者は110人いたが、現在はゼロ。一方で、合葬式墓地に24年は1041体分の埋葬が許可された。詳しく調べると、うち453体は市営墓地の墓じまいだった。 将来的に維持管理ができなくなる墓地の無縁化に不安を抱く家族が少なくない。市の担当者は「合葬式への申し込みがこんなにも多いとは思っていなかった」と語った。 墓地を全く持たない選択をした家族もいる。 一艘の遊漁船が8月下旬、水戸市川又町のマリーナから大洗沖に向かった。3月に91歳の夫を亡くした同県つくばみらい市紫峰ケ丘の女性(81)が乗っていた。 約20分後、女性は木箱からそっと白い袋を出し、細かい粉となった遺骨を海にまいた。花を手向け、「お父さん、ありがとう」。涙ぐみながら手を合わせた。 自宅近くの寺を中心に墓地を探し、3カ所巡ったが折り合いが付く場所は見つからなかった。インターネットで海洋散骨の案内にたどり着いたという。 「仮に墓地を持っても、県外に住む2人の子たちは年に1回、お参りできるかどうか。思い出のある大洗の海なら、お父さんも喜んでくれるはず。私たちにとって墓地は不要と判断した」。女性自身も海洋散骨を望んでいる。 墓を守り続けたい人もいる。水戸市赤塚の女性(76)は免許を返納し、最近はバスで霊園を訪れる。先祖代々の墓地を清掃し、花と線香を供え、目を閉じて手を合わせる。 40代と50代のともに独身の息子がいる。「いつまでお墓参りができるか心配だが、来るとほっとする。自分としては墓を守っていきたい。息子たちにも守っていってほしい。無理な希望だろうか」と話した。 県葬祭業協同組合の林三弘理事長は、自身が経営する葬儀社で樹木葬や海洋散骨などにも対応する。「子や孫がいないなど、墓を継承していくのが困難な時代。経済的な負担を軽くしたい要望も大きい。多様な価値観を受け入れていく必要がある」と指摘した。 少子高齢化を背景に、当たり前に行われてきた「継承」が社会や地域、家族の間で難しくなっている。
茨城新聞社