窪田正孝「宙わたる教室」での飄々とした佇まいに宿る魅力…見る人の好奇心をそそる俳優像
とある実話に着想を得て生まれた伊与原新氏の小説を実写化したドラマ10「宙わたる教室」(毎週火曜夜10:00-10:45、NHK総合ほか)で、定時制高校の教師を演じている窪田正孝。ハンディキャップのある生徒たちの心を開かせる、繊細な演技に注目が集まっている。新しい学園ドラマの可能性を見せた本作で、窪田はいっそう見る者を引きつけるようになった。12月10日(火)に最終回を迎えるということで、今回は窪田の魅力に迫る。 【写真】スタイル抜群…!窪田正孝の全身ショット ■窪田の飄々とした演技が見事 「宙わたる教室」で窪田が演じているのは、定時制高校に赴任してきた理科教師の藤竹叶。飄々(ひょうひょう)とした風貌の藤竹がまず対峙(たいじ)するのは、ディスレクシア(読字障害)のある生徒・柳田岳人(小林虎之介)。彼に対しディスレクシアを正面から指摘していくが、いきり立つ岳人に対しても自分の調子を曲げない。教室でも教育論を熱く説くでなく「空はなぜ青いのか?」といった素朴な疑問を実験で解き明かす。やさぐれていた岳人は、空が青い理由を聞かされて煙草にも好奇心を見せ、表情は優しくなっていく。視聴者も、いつの間にか生徒目線になって彼が語る自然の神秘に引き込まれていく。 こんなふうに藤竹はマイペースに、一筋縄ではいかない生徒と接していく。日本とフィリピンのミックスで働きながら学校に通うアンジェラ(ガウ)や、不登校だったことのある少女・名取佳純(伊東蒼)、高校に通えなかった老人・長嶺省造(イッセー尾形)が、やがて藤竹と一緒に「科学部」を作って実験に打ち込んでいく。 藤竹はもともとは研究者で、この学校に赴任してきたのも「科学部を作るため」だったという。前述のように熱血教師にはほど遠いし、校内で起こる事件にも積極的に介入しようとはしない。そんな窪田の佇まいは「こんな理系オタクの先生、本当にいそう」と思わせてくれる。学校だけでなく、塾や大学でこういう研究の面白さを語る先生に出会った経験がある人は、少なくないだろう。机上の勉強にとどまらない学ぶことの面白さを、窪田“藤竹”は静かに生徒と視聴者に訴えかけてきた。 ■俳優デビュー18年、窪田のキャリアをたどる 2006年に俳優デビューした窪田は、同年4月期に放送されたドラマ「チェケラッチョ!! in TOKYO」(フジテレビ系)でいきなり初主演を果たす。だがその後しばらくオーディションに落ち続ける期間を経て、2008年にドラマ「ケータイ捜査官7」(テレ東系)で主人公・網島ケイタ役に起用される。無気力に生きていた高校生のケイタが、ある日予期せぬ事態に巻き込まれたことで突如、ネットワーク犯罪を取り締まる秘密機関「アンダーアンカー」のエージェントになったことで日常が激変。ちょっとおどおどしつつも、人のために使命感を燃やす主人公を演じた。この作品を窪田は後年になっても「最大の転機」と振り返っていて、抜てきしてくれた三池崇史監督への思い入れも深い。 「ケータイ捜査官7」の後、窪田は20代前半にして性格俳優の道を歩む。水木しげる氏と妻の半生をモデルにした連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」(2010年、NHK総合ほか)では、水木氏のアシスタント・倉田圭一役で出演(モデルは漫画家の池上遼一氏)。初めての大河ドラマ出演になった「平清盛」(2012年、NHK総合ほか)では主人公である平清盛の嫡男・平重盛に扮(ふん)した。重盛は平家の御曹司であるとともに合戦にも出陣、壮年期には平家と朝廷の板挟みになって苦悩する人物。若くはつらつとした姿から、髭をたくわえて貫禄ある権力者になったところまでを演じ分けた。 そして2020年放送の連続テレビ小説「エール」(NHK総合ほか)では、古関裕而氏がモデルの作曲家、古山裕一役で主演。モデルとなった古関氏の生涯は、軍歌から流行歌まで昭和の音楽史を象徴するといっていい。窪田も、およそ30年にわたる古山の半生を一人で演じていく。 気の弱い若者だった古山が音楽に夢を見いだし、作曲家として成功。この前半生は窪田の持っている、ややはかなげなスター性にマッチしているが、それだけでなく慰問に訪れた地で戦争の現実に打ちのめされるし、戦時歌謡を書いてきたことに苦悩もする。泥くさい人間像を演じていった。 もちろん他にも引き出しは数多い。三池監督と約10年ぶりに本格タッグを組んだ映画「初恋」(2020年)では余命短いプロボクサー役で持ち前のマッチョな肉体を生かしたし、端正な顔立ちはちょっと危ういエキセントリックなキャラクターをさせてもぴったり。例えば12月20日(金)から公開予定の映画「聖☆おにいさん THE MOVIE~ホーリーメンVS悪魔軍団~」では煩悩の化身である悪魔マーラに扮する。ロックスターのような風貌でセクシーな娘たちを率いて、チャラチャラとした役作りに振った窪田のマーラには「宙わたる教室」とのギャップに驚かされるばかり。 窪田が何でもできる俳優なのはここ数年の活躍ぶりを見れば明らかだが、ちょっと風変わりな人を演じても強いメッセージを発信できる、そんな力を見せたのが「宙わたる教室」だった。 ◆文=大宮高史