「貴重な経験、とても楽しい」 空港の最前線で働く軽度知的障害の25歳 職場の多様化へ周囲の支え #令和に働く
日本の空の玄関口・成田空港の現場最前線とも言える駐機場(ランプ)で、軽度知的障害と聴覚障害がある7人の従業員が働いている。日本航空の特例子会社「JALサンライト」(東京都品川区)が障害のある人の業務の幅を広げてやりがいを感じてもらおうと、2023年1月から始めた試みだ。同社によると、従来、これらの障害者が航空関連で従事する仕事は社内向け業務などの「裏方」が中心で、安全面の厳しい制限がある駐機場で働く事例は少ないという。現場に密着すると、「貴重な経験でとても楽しい」と話す社員の姿があった。(成田支局・渡辺翔太)
パズルのピースを埋めるように
「どうやったら入るだろう?」 軽度知的障害と発達障害がある千葉県四街道市出身の谷奥大晴さん(25)は成田空港の駐機場で、手荷物をどう積み込めば良いか思案していた。谷奥さんが1年以上前から従事しているのは、運航を地上で支えるために行う「ランプハンドリング業務」の一種で、旅客から預けられた手荷物を出発前の航空機に搭載するコンテナに積み込むことが主な役割だ。 旅客のキャリーバッグやリュックなどを傷つけないように丁寧かつ、フライトに遅れが生じないように素早く作業していく。「大きさや形が異なる手荷物をパズルのピースを埋めるように試行錯誤している時が楽しい」。 送り先を間違えないよう、手荷物のタグとチェックシートを照合する作業も手慣れた様子で行う。 週5日間、実家から電車で30~40分かけて成田空港に通う。シフト制の8時間勤務で、早番の日は午後2時半すぎ、遅番では同10時半に仕事を終える。JAL傘下の格安航空会社(LCC)スプリング・ジャパン(成田市)の国内・国際線を担当し、1日に最大で出発4便の積み込みと到着5便の積み降ろしを行っている。
6年間「縁の下」で運航支える
谷奥さんが2つの障害の診断を受けたのは小学生の時。 「勉強が追いつけなくなり、不登校気味になったことで受診した」と振り返る。いずれも軽度であるため日常生活や人付き合いに支障は感じていないが、難しい言葉や表現を言われると解釈が難しい時があると自覚している。 17年、市川市の特別支援学校を卒業した後、18歳でJALサンライトに入社した。「高校3年生の時に(同社の)インターンに参加して、清掃やシュレッダーで書類を切断する業務に楽しく取り組めたので、ここで働きたいと思った」。 同社には障害者200人以上のほとんどが正社員として雇用されている。軽度知的と聴覚の障害者がその半数以上を占める。JAL本社に加え、成田空港と羽田空港で勤務し、パイロットや客室乗務員の制服管理やスケジュール表作成、海外支店への資料郵送などを担い、航空機を運航する社員たちを間接的な業務で支えている。 谷奥さんは1年目から成田に配属され、清掃や資料郵送などの事務仕事のほか、客室乗務員や地上係員らが利用する社員向けのカフェ「SKY CAFE Kilatto」のスタッフとして働いた。牛乳をスチームにしてカフェラテを作るなど本格的な商品を提供した。23年1月にランプハンドリング業務に移るまで、約6年間「縁の下」から航空機運航を支えた。