伝統的なSIとは異なる“SIビジネス”を目指す--IIJがサービスインテグレーション事業を力説
SIerは勝ち残れるのか。実は、有力SIerの多くが自前のクラウド基盤を持っている。IIJも「GIO」と呼ばれるクラウド基盤を開発・提供している。とはいってもAWSなどのグローバルプレイヤーと真っ向勝負できるものではない。 「投資金額は2桁も3桁も少なく、勝てるはずはない」と北村氏はいう。しかし、日本の政府や自治体、企業が全てのアプリやデータを海外のパブリッククラウドに移行するわけではないだろう。例えば、機微データなどは情報セキュリティの問題がある。もう1つは、海外のクラウドやSaaSの運用・保守性が乏しいこと。同氏によると「使い勝手が悪く、IT部門や業務部門の力だけでは使いこなせない」のだと訴える。 同氏は「そこに、日本のSIerが果たす役割がある」という。運用を支援したり、ユーザーの固有システムとクラウドとのインターフェースを取ったりすることだ。例えば、IIJはクラウドエクスチェンジサービスなどを用意する。マルチクラウドや複数SaaSの利用がネットワークのレスポンスを悪化させることもあるため、改善・向上やセキュリティを確保するサービスを開発した。 「快適にセキュアにシステムが使えるサービスや運用は地産地消になる」(同氏)。その結果、これまでに数百のサービスを作ったわけだ。もちろん、売れなかったサービスも少なくないだろう。 もう1つ可能性のあるビジネスが、ユーザー企業のDXへの取り組みにある。事業部門や開発部門が自らのビジネスをトランスフォーメーションするために、テクノロジーを実装したり、トライアルしたりするために、ITやデジタルに強い最高技術責任者(CTO)を外部から招いたり、IT企業と合弁会社を作ったりする。そうした支援も求められている。北村氏は「当社にはSIとネットワークの構築力もある」と主張する。 また、同氏は「サービスが当社のコアコンピタンスだ」という。クラウドベンダーやSaaSベンダーが気の利いたサービスを投入する可能性を否定できないものの、「ユーザーの利便性とセキュリティを具備したサービスを提供するのは、彼らには難しい」と、運用までを考えたサービスを提供するIIJに優位性があると反論する。 実は同社のSIビジネスは運用・保守を含めると、1200億円超にもなる。その残りの約1500億円の多くがサービスで、北村氏によれば、SIの運用・保守を含めると総売り上げの8割が月額のストック型ビジネスになる。そこを伸ばすため、数百のサービスをさらに拡充していくという。 個々の小さなサービスをユーザーが選択して利用するのは難しく、「サービスインテグレーションが求められる」と、IIJは自社開発だけではなく他社製サービスとの組み合わせも推進している。例えば、ある程度の塊(パターン)を作る。同社はそれをソリューションと呼び、これまで年間に約10個を開発してきたが、これからも年に10個程度を作り出す計画だとしている。 また、サービスインテグレーションの底上げにも注力する。IIJの社員数を大きく増やすのではなく、パートナーとの関係を強化する方針だという。例えば、セキュリティ領域のパートナーと濃い付き合いをする。今もパートナーの数はたくさんあるが、より密接な関係にするのだという。そして、“SI(システムインテグレーション)”から新たな“SI(サービスインテグレーション)”へのビジネスモデルを確立させていくのだろう。 田中 克己 IT産業ジャーナリスト 日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任、2010年1月からフリーのITジャーナリスト。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書は「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)。