【今月見るべき新作映画】Z世代の心のうちを丹念に描く新感覚ロードムービー『国境 ナイトクルージング』
発見、感動、思索……知的好奇心を刺激する、映画好きな大人のための今月の新作を厳選! 今月見るべき新作映画(画像)
中朝国境を舞台にZ世代の心のうちを丹念に描く、新感覚ロードムービー『国境 ナイトクルージング』
中国東北部、北朝鮮との国境沿い、中国と朝鮮の文化が混じり合う朝鮮族自治州の延吉。上海から来たハオフォンは友人の結婚式でこの街を訪れたが、その目的はそれだけではないような翳りを纏っている。時間つぶしに参加したバスツアーで携帯電話を失くした彼は、ツアーガイドのナナと彼女の男友達シャオと誘われるまま飲み会に繰り出す。朝まで飲み明かしフライトを逃してしまったハオフォンを再び誘い、バイクに3人乗りして国境クルージングに繰り出してゆく。天然の巨大スケートリンクと化した天池を経て、目指すはハオフォンが見たいと望んだ氷点下の長白山へ。
偶然出会った男女3人は、互いの過去や孤独に踏み込むことなくそっと寄り添い、ひととき自由の風に身をゆだねて息を吹き返す。彼らの鬱屈が少しずつ溶け出してゆく時間を切なくも鮮やかにすくい取り、観る者の心をふるわせるのは『イロイロ ぬくもりの記憶』(2013年)でカンヌ国際映画祭のカメラドール(新人賞)を受賞したアンソニー・チェン監督。韓国映画の中でしばしば犯罪都市として描かれる延吉が、このシンガポール出身の俊英の手にかかり、ニュアンスのあるフォトジェニックな風情を見せはじめるのにも瞠目させられる。『唐人街探偵』(2015年~)のリウ・ハオランや『少年の君』(2019年)のチョウ・ドンユイなど、日本にも多くのファンを獲得している若手人気俳優から、ふとした瞬間に魅力的な表情も引き出す手腕も見事だ。 『国境ナイトクルージング』 10月18日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開 BY REIKO KUBO