第96回アカデミー賞のスタイルを“In&Out”で判定!パーフェクトなルックを披露したセレブは誰?
「第96回アカデミー賞(以下、オスカー)」の授賞式が、米現地時間3月10日夜、カリフォルニア州ロサンゼルスのドルビー・シアターで開催された。宮崎駿監督の10年ぶりの新作『君たちはどう生きるか』が、長編アニメーション映画賞を受賞し、北米で高く評価されたピクサー映画『マイ・エレメント』を退けて、21年ぶり2度目の快挙を果たした。山崎貴監督率いる『ゴジラ⁻1.0』は、日本映画初となる視覚効果賞を受賞し、偉業を達成した。日本人の躍進とロサンゼルス、と言えば、いま話題の大谷翔平選手が「アメリカ西海岸名物で好きなもの」として答えたファストフードチェーンの「In-N-Outバーガー」にちなみ、オスカー・レッドカーペットでのINとOUTなファッションをご紹介する! ゼンデイヤ ■IN:ネオ・ハリウッドグラマラス/OUT:オールド・ハリウッドグラマラス いまレッドカーペットで最も映えるのは“オーガニックさ”。デジタルやソーシャルでいくらでも盛れることがわかってしまう社会において、無機質でフェイクなものが最も萎える。そんな傾向をいち早くキャッチしたセレブたちが、オスカーのレッドカーペットでこぞって選んだIN(アリ)なスタイルは、ハリウッドグラマラスなドレスに、ナチュラルなヘアメイクを合わせる、伝統に新しさを取り入れたものだ。 トレンドをけん引し、時代の寵児であることが一目みてわかるのは、ゼンデイヤ。体の曲線を美しく魅せるコルセットのような流線形をもったアルマーニプリヴェのドレスには、フラワーモチーフやピンクといった、流行りのガールコアがさりげなく組み入れられている。合わせたブルガリのジュエリー、過剰でないヘアのセットや自身の肌や瞳の色に合わせたメイクも、ミニマルながらもグラマラス。このバランス感、パーフェクト! 大流行中のクワイエット・ラグジュアリー(どんな高級ブランドかをあからさまに見せつけないトレンドのこと)を体現したキルスティン・ダンスト。シンプルなホワイトのドレスはグッチのもの。ドレスの直線を活かした胸元のデザインと、ヘアやデコルテの女性特有のなだらかなカーブとの対比が絶妙で、かなりいまっぽい。ちょっと前なら、地味すぎる!となっていたスタイリングだろうが、アクセサリーをほぼ付けないことの潔さとモダンさもあいまって、このスタイルはIN! 『関心領域』などの話題作に立て続けに出演し『落下の解剖学』で主演女優賞にノミネートされたザンドラ・ヒュラー。本人がとあるメディアのインタビューで “着ることのできるアート”と評した通りの、バストのラインがショルダーを突き抜けたような美しいスキャパレリのドレスで登場した。初のオスカーノミネートとあって、彼女に密着した『ヴァニティフェア』とメイクを担当したジョー・ベイカー、そしてヘアを担当したダニーロによると、アイラインで主張を強くする代わり、アイブロウやヘアは毛流れを生かした自然なものにした、とのこと。(写真の多くは正面から撮っているため)ライブや動画で見ていないとわからないのだが、センターパートのヘアスタイルはアップドゥ(シニョンや夜会巻きなど含むまとめ髪)ではなく、動きのあるポニーテールであることが、実は雲泥の差を生んでいる。これ、アップドゥだったら、なぜかどこか古臭い…となっていたことでしょう。髪、じゃなくて神はディテールに宿る。センスのよいグラム(ヘアメイク)チームを選ぶのも、そのセレブのセンスが問われるもの。初のオスカー参戦でも、気合を入れ過ぎないスタイルはIN! 今回のレッドカーペットに一歩足を踏み入れた瞬間から、世界の各メディアで、ベストファッション!と言われていたのは、アメリカ・フェレーラ。『バービー』でのパワフルで説得力のある台詞を自分のものにした演技が評価され、助演女優賞にノミネートされた。受賞はしなかったが、女性として現代を生きる苦悩や喜びを表現した役での参加なだけに、抜群にキュートなピンクのアトリエ・ヴェルサーチェのドレスをチョイス。ヘアメイクは、デイリーなお出かけにも機能しそうなナチュラルなものだが、ポメラートのチョーカーネックレスがファインジュエリーのゴージャスさをもってして、全体をレベルアップさせている。このレッドカーペット・ファッションの足し算と引き算具合は、IN! 同じヴェルサーチェを選んだのは、チームも同じ『バービー』のマーゴット・ロビー。フェレーラと違うのはカスタムメイド(アトリエ・ヴェルサーチェ)ではなく、発表されたばかりの24年秋冬コレクションを選んだこと。そして、カラーも含むバービーコアを避けたこと。物議を醸したノミネートすらされなかったことからそうしたのか、は憶測の域を出ないが、これらの選択が功を奏したことは間違いない。ここでバービーコアを選んでいたら、“去年流行った感”が出てしまって、ロビーもろとも、取り残された印象を与えていただろう。ナチュラルな自身のヘアを生かしたダウンのセット、盛らないメイク、アクセサリー、最新のコレクションから選んだウエストのドレープが演出するフェミニン度合いが優秀なブラックのドレス。どれも、ロビー自身に魅力があり、自信があること、業界にもトレンドでも最先端にいることを証明するに充分。このアティチュードは、IN! 惜しくも主演女優賞の受賞はならなかったものの、ネイティブアメリカン女優初のオスカーノミネートなどの歴史的な功績の枚挙にいとまがない『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』のリリー・グラッドストーン。もちろん、ファッションもその1つ。イノベーティブなスタイリストのジェイソン・レンベルトが、今季の賞レースシーズンにおけるすべてのスタイリングを手掛け、なかでも特別なオスカーのレッドカーペットに選んだのは、新しいクリエイティブ・ディレクターに抜擢されたばかりのサバト・デ・サルノによるグッチ。カスタムメイドのドレスに刺繍されているのは、実に216ものペタル(花びらモチーフ)で、このアートのためにタッグを組んだのは、自身もモホーク族などにルーツをもつクイルワーク(北米先住民によって伝わる伝統織物の装飾の一種)アーティストのジョー・ビックマウンテンだそう。耳元のアクセサリーは同じペタル、胸元はゴージャスなインディアンジュエリーで飾ったが、ヘアメイクは無理に着飾ることをしないで、豊潤かつ柔らかい印象にまとめた。ルーツを活かした個性は、唯一無二のもの。オリジナリティのあるエレガンスは、文句なしのIN! 惜しかったのは、プレゼンターとして登壇したアリアナ・グランデ。ボリュームのあるピンクのボールガウンがオールド・ハリウッド・グラマーなものだし、ヤングなのだから、アップドゥなヘアではなく、もっとナチュラルでよかったかも。淡いピンクは、トレンドのガールコアなので、ストリートの流行は汲んでいるのだけど、巻き髪など冠婚葬祭なヘアスタイルは、今回のレッドカーペットではOUT!な印象。 メイクアップを担当したカズ・ヒロ氏がノミネートされた『マエストロ』に出演し、主演女優部門でノミネートされたキャリー・マリガンも惜しかった。ミニマムにおさえたヘアメイクや研ぎ澄まされた素の美しさで充分だから、オールドグラマラスな印象のオペラグローブ(ロングの手袋)はナシのほうが、断然いまっぽい。各メディアで“ベストドレス!”“これぞ伝統のハリウッドスタイル”と評されていて、確かにこれがオールド・ハリウッドグラマラスの正解のようなルックだけれど、もっと彼女の“素肌”が見たかった。 2023年に出演した3つの映画『バービー』『アメリカン・フィクション』『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』のいずれもがノミネートされたイッサ・レイ。高さを出してまとめたヘア、豪華なベルベットのドレス、全体のシルエットを縦のラインでみせることで、女性らしいボディラインの色気が際立つ…というのは、オールド・ハリウッドグラマラスなルックを成功させる秘訣なのだけれど、頭の先からつま先まで、従来のハリウッドグラマラスをしてしまうと、今回のレッドカーペットではOUT。その人のキャラクターが見えてこない教科書から抜け出したようなルックは、“ただのオールド”ハリウッドになってしまうから、どこかに彼女らしさが欲しかった! ■IN:エレガントにルールを破る /OUT:エレガントなルールを破る 今冬に終わったばかりのメンズのファッションウィークであきらかになったのは、クラシックで洗練されたスタイルが流行するということ。ウィメンズと同じく、古きよきファッションがINなのだが、やはり現代だからこそのエッセンスを意識しないと、ジェントルマンの称号は手に入らない。今回のレッドカーペットで、モダンな紳士のスタイルを披露できたセレブたちは、実は巧妙なルールブレイカーだった? Netflix製作『ラスティン:ワシントンの「あの日」を作った男』で主演男優賞にノミネートされたコールマン・ドミンゴは、ブラックタイというドレスコード内で、アクセサリーをうまく使った冒険的コーディネートが実に巧く、ボタンに特徴のあるカスタムのルイ・ヴィトンに合わせたカウボーイブーツもスタイリッシュ。リボンブローチなのか、ボウタイにブローチをつけたのか、いずれにしても優雅。タイをこのように彩るアイデアは、IN。 物理学者で原爆の父として知られるJ・ロバート・オッペンハイマーの半生をしなやかに演じ、初オスカーノミネートで、見事に主演男優賞を受賞したキリアン・マーフィー。タキシードは、クラシックなヴェルサーチェ。90年代のヴィンテージピースを基に、カスタムしたそうだ。合わせたアクセサリーは、オメガの「デ・ヴィル」ウォッチと、ここでもブローチが。香港発のブランド、Sauvereignで特注したものだそう。『オッペンハイマー』での受賞は、“世界の平和のために従事する人に捧げる”と受賞スピーチでふれたように、何においてもディテールに心を配る姿勢はIN。どのアイテムも、最も派手なデザインを避けて選んだところに、はずしのテクニックの気品と巧みさを感じる。 2009年以来の5人で発表する体制が復活したとはいえ、昨年の受賞者がプレゼンターとして参加するのが習わしのオスカーだから、キー・ホイ・クァンももちろん出席。タキシードはジョルジオ・アルマーニで、ラペルにはブローチをあしらった。クァンのインスタグラムによると、ジュエリーはカルティエとのこと。今回は違うことで話題の中心になったクァンだけど、振る舞いもファッションもプレイフルなのはIN! 『バービー』のケンたちが披露した、近年で最も盛り上がったとの呼び声が高い「I’m Just Ken」のパフォーマンスにも参加したシム・リウ。オスカーのドレスコードがブラックタイであることはよく知られているが、ボウタイやタイをしないどころか、シャツまでナシでレッドカーペット入りした。それでも、各メディアでベストドレスに選ばれていたのは、フェンディのダブルブレストからユニークなシェイプを選んだこと、セットアップのデザインがタイトでなくてルースであること(特にボトムスのラインがとても優美)、特徴のある重ねのパートをジュエリーで飾ったこと。「想像上の自然」と名付けられたダイヤモンドとプラチナのジュエリーで、デビアスのものだそう。ウォッチは「世界はあなたのもの」という遊びのあるジェイコブス・アンド・コーをチョイス。メンズのファッションルールも、エレガントにやぶられるのであれば、粋にみえる好例。 意外にも(?)、とてもおしゃれだったのが、アップル社のCEO、トム・クック。オスカー参加の理由は、『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』がアップルTV製作だから。服を選ぶ時間がもったいないとファッションに関心がないことを公言していた前CEOと違うことが一目瞭然なのが、タキシードのフィッティングがパーフェクトだから。この日のためにどこかのブランドから借りたりしているのではなくて、テイラードで自分サイズに仕立てていることがわかる。メンズ、特にタキシードはフィッティングが命。「品を出せるか」はショルダー、胸板、袖などバランスに大きく左右されるからだ。さすが普段、1ミクロンの差にこだわって、美しいデザインを世へ送り出している人なだけある!ラペルに付けたピンも、スポーティーで未来的なナイキのアイウェアもファッショナブルだし、メガネのフレームにいたっては、リリー・グラッドストーンのドレスのブルーに合わせていたとしたら、テクニシャン過ぎて卒倒しちゃうかも。よい裏切りの着こなしは、もっとちょうだい!なIN! 一方、残念だったのは、ニコラス・ケイジ。ブラックタイのドレスコードをきっちり守り、王道のタキシードを選ぶのは大賛成なのだが、ジャケットは、男性らしい肉体の美しさを魅せるように吸い付いているようなサイズ感が望ましいし、ボトムスの裾もだぶついている。ドレスコードが存在する意味はそれが最もエレガントだから。奇をてらってルールを破らなくてもいいけれど、エレガンスのルールを守らないのはもっとOUT! ■技ありシルバーはIN フローレンス・ピュー、ミシェル・ヨー、ライアン・ゴスリング。3人に共通するのは、クールなシルバールックを着こなしたことだ。ピューは、Del Coreのドレスに合わせたナチュラルなヘアメイクがよかった。ヨーのドレスはバレンシアガで、オールド・ハリウッドなオペラグローブを舞台上で外した選択はナイス。ドレスと本人だけで、充分輝いている。ゴスリングはシルバーのラインがシャープでスタイリッシュなグッチで登場。3人とも、エフォートレスに身に纏っているところがIN! 同じシルバーのラインでも、アウトなチョイスをしたのは、モデルで女優のモリー・シムス。シルバーの部分が、高級自転車を盗まれないようにがんばる鎖のチェーンみたい。自分らしさをファッションで表現するトレンドはいまだ健在なのだが、わかりやすいボディポジティブなのは去年の流行なのだ。 ■マーメイドコアはIN 淡いブルー、ヴィナースのようなシルエット、シェルモチーフなどを取り入れたマーメイドコアを選んだセレブも多かった。赤のカーペットに映えること、春にふさわしい明るさと奥ゆかしさが表現できるからではないだろうか。『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』で助演女優賞を獲得したダヴァイン・ジョイ・ランドルフは、ルイ・ヴィトンを着用。トゥーマッチになりそうなデザインながら、鮮やかなペールブルーが軽やかさを演出している。 『哀れなるものたち』で主演女優賞に輝いたエマ・ストーンのドレスもルイ・ヴィトンで、個性的なミントカラーが、ストーンの赤毛と肌の色にぴったり。担当スタイリストによると、クロシェ編みの貝殻デザインがキュートさに一役買っていて、ストーンの演じたピュアなベラ・バクスターに似合うと思ったそう。 話題作への出演が相次ぐ、アニャ・テイラー=ジョイは、INなシルバーも取り入れたディオールのクチュールで、『君たちはどう生きるか』の受賞を発表した。テイラー=ジョイは、素の美しさを活かした自然なヘアメイクもいまっぽいし、すべてがIN!の見事なスタイリングを披露した。 OUTだったのは、シンシア・エリヴォ。『ウィキッド』チームでの参加だから、重々理解できるのだけど、ダークグリーンが…重い…。もう春なのに。緑のカラーは譲れないにしても、素材がレザーでなければ、だいぶ印象が違っただろう。もう春なのに。ドレス自体はゴージャスでカッコいいのだけど、それならせめてネイルはナチュラルや淡いカラーにしたら垢ぬけ度が激変したはず。もう春だもの。ものすごく凝ったネイルアートで、ビューティ誌などがこぞって、ベストネイル!と評していました!とフォローは入れておくことにします。 文/八木橋恵