「死んだ後に角膜を提供しますか?」 医師が問いかける〝献眼〟 回答は免許証の裏側に
死者の角膜を提供「献眼」 新型コロナで大きく減少
藤本さんのように角膜を必要としている人に、自分が死んだときに移植用の眼球を提供することを「献眼」という。角膜の提供を待つ待機患者は全国に2015人(2023年度)いる。ここ5年は増加の一途を辿っている。しかそれに対し提供してくれたドナー、献眼者数は611人で減少傾向にあり足りていない。
藤本さんの手術を担当した広島大学病院眼科の近間泰一郎診療教授は、 「献眼自体の数は約10年前から減っていて、新型コロナウイルスの影響は一番大きかった。その後も横ばいです。提供してくださる角膜がないとできない医療ですから、少しでも角膜の提供が増えて患者が喜び、笑顔が増えることが我々医師にとって一番の望みです。」と話している。 自分の死後、目が見えなくて困っている人たちへ、角膜を提供するとはどういうことなのだろうか。 提供希望者はアイバンクへ登録することで提供ができる。免許証や保険証の裏側の臓器移植提供の意思表示欄に「眼球」の項目もあり、そこに記入することで意思表示もできる。 しかし登録しても本人が忘れてしまったり、本人が覚えていても周囲の家族に話しておらず、家族の同意が得られなかったりで、実際の提供に結びつかないケースもある。 想像してみてほしい。大切な家族が亡くなったとき、悲しみにくれている。そんなときに、急にそんな話をされても自分が何も知らなければ、すぐに同意できるだろうか…。 だからこそ人の死に立ち会う医師側も、提供の意思確認をしづらいという現実があり、なかなか提供が進まない要因となっている。
角膜を提供しますか?あえて聞く看取り医
そんな中、あえて患者を看取った後に提供の意思確認を遺族にする医師がいる。広島市で訪問医療を行う福井英人医師は、自宅で最期を迎えたい人を診察する看取り医だ。彼は患者にこう話しかける。 「いつかお看取りになったとき、目の黒目の部分を人にあげられるんですよ。150歳でもあげられる。もし、目がよく見えない人の役に立ちたいことがあれば対応するので言ってくださいね。」 遺族に対してこう聞くこともある。 「亡くなった後、献眼という形で角膜の提供ができますが、どうされますか?」 こうしたことをあえて聞く医師は珍しい。何より怒られそうで聞けないという医師もいる。福井医師も最初はそうだったという。しかし、提供を待つ患者が多くいて、提供後どう役立つかもよく知っているので勇気を持って聞き始めた。 すると、過去に献眼の意思を聞かなかった遺族に言われたという。「うちも提供したかったのに、なんで聞いてくれなかったの?」その時に思った。 「提供は看取りのオプションなのかもしれない。ただ何もせずに亡くなっていくのか、他の人にギフトをあげて亡くなるという選択肢を作ってあげられるのではないか。『ください』というのではない。こういうことができるんだよという情報を提供するのも医師の役割なのではないか。」 もちろん断ってもらっていいと考えている。 「個人個人いろいろな考え方があると思う。あげたくないと思う人は、それで責められることもない。それはそれでいいと思う。」 「提供する権利」「提供しない権利」「受ける権利」「受けない権利」4つの権利を誰もが持っているのだから。