老若男女が泥にハマる祭典 誕生40年、「ガタリンピック」の魅力とは
晴天に恵まれた2024年6月2日、佐賀県南西部に位置する鹿島市で、泥だらけの運動会「ガタリンピック」が開かれた。地元で「ガタ」と呼ばれて親しまれる有明海の干潟を舞台に、年齢も国籍も所属も異なる人々が、夢中になって泥まみれとなる祭典だ。「地球に包まれたような感覚になる」「世界平和を感じる」。そんな不思議な感想を出場経験者が語るガタリンピックの魅力とは一体何なのか。今年で40年目を迎えた大会に、記者も同僚と参戦した。(時事通信社佐賀支局 仲村菜乃花) 【写真】「人間むつごろう」で泥だらけになる参加者
数時間限定の「競技場」
有明海は佐賀、福岡、熊本、長崎の4県に接する約1700平方キロメートルの海。干潮と満潮の潮位の差は最大6メートルにもなり、干潮時には200平方キロメートルの日本一広大な干潟が現れる。冬はノリやカキの養殖漁業が盛んで、夏にはハゼ科のムツゴロウをはじめ、ワラスボ、エツ、ハゼクチといった、日本で有明海にのみ生息する生物を見ることができる。
大会当日。会場の干潟は朝の満潮時に一面海だったが、徐々に潮が引いていくと、黒い泥の陸地が姿を現した。すぐ近くではムツゴロウが飛び跳ね、小さいカニがうごめいている。水産資源が豊かなため、地元の人は「黒いダイヤモンド」と呼ぶこの場所が、ガタリンピックの「競技場」だ。 正午前に干潮を迎えた後、夕方には再び一面が海に戻ってしまう。この間の数時間に競技だけでなく片付けまでを終えなければならない。実行委員会によると、出場希望者は年々増えているが、時間的な制約と、運営や安全面の課題から参加者を増やすことは難しいという。
倍率10倍の人気競技も
事前申し込みが必要な競技には1000人以上が応募した。一番人気の「ガタチャリ」は、抽選倍率が10倍超に上った。細長い板を並べた25メートルのコースを自転車で走り、早さを競うのだが、参加者の大半は途中で落下して泥まみれとなる。首尾よくゴールしても、自転車にはブレーキが付いておらず、結局はゴール後に転落して泥だらけとなるオチが待っている。 クレーンで吊されたロープを「ターザン」のように使い、約3メートルの高さから干潟に飛び込む「ガターザン」も抽選の対象だ。飛び込む前に一言発する機会が与えられ、抱負や事業の宣伝を叫ぶ声が響く。コスプレして臨む人も目立ったが、飛び込むと大体は肩までつかり、衣装も泥だらけとなる。飛距離に加え、芸術性も評価のポイントとなるため、水泳の飛び込みよろしく、回転しながら落下して頭から泥にはまってしまう人も。叫ぶたび、飛び込むたびに観客から盛大な笑いや歓声が沸き上がった。 「アメージングだ。面白い」。モザンビークから佐賀大学に留学中のアルナルド・バロイさん(37)はガターザンに初参加。全身泥だらけになりながら興奮を隠しきれない様子で、「他では出来ないチャレンジだ。また来年も是非出たい」と声を弾ませた。大分県から参加した川野貴廣さん(30代)は、人気ゲームシリーズ「スーパーマリオ」の弟「ルイージ」に扮装し、「兄を超えます」と叫んでから飛び込んだ。「怖かったが、非日常感が良かった」と笑顔を見せた。