準衛星「カモオアレワ」を生み出したクレーターを特定? 月起源説を後押し
469219番小惑星「Kamoʻoalewa」(※1)は、見た目上は地球の周囲を公転しているように見える「準衛星(Quasi-satellite)」の1つです。その公転軌道や表面の物質の観測結果は、Kamoʻoalewaが普通の小惑星よりも月に類似していることを示しているため、月の破片である証拠探しが行われています。 地球の準衛星「カモオアレワ」月から飛び出した破片の可能性を示す新たな研究成果 清華大学のYifei Jiao氏などの研究チームは、Kamoʻoalewaのような破片が月の表面から飛び出すにはどのような条件が必要かを数値シミュレーションで解析しました。その結果、数百万年前に直径10~20kmのクレーターを作るような天体衝突が、Kamoʻoalewaのような準衛星軌道を持つ小惑星を飛び出させるという解析結果を得ました。この条件に一致するのは「ジョルダーノ・ブルーノ」クレーターだけであるため、このクレーターがKamoʻoalewaの起源である可能性があります。 ※1…日本語表記は「カモオアレワ」が一般的ですが、ハワイ語の発音に忠実ではないとされており、正式な表記が定まっていません。より原語に近い表記としては「カモッオアレヴァ」や「カモ・オーレヴァ」などが提案されています。本記事では原語表記とさせていただきます。
■Kamoʻoalewaの起源は月にあり?
2016年に発見された469219番小惑星「Kamoʻoalewa」は、地球から見た場合、地球の周りを1年かけてゆっくりと公転しているように見える奇妙な小惑星です。ただし、これは見かけの動きであり、太陽から見た地球とKamoʻoalewaはそれぞれ独自に太陽を公転しています。このように、実際には地球の衛星ではないものの、見た目の上では衛星のように振る舞う天体を「準衛星」と呼びます。 3万個以上見つかっている地球近傍小惑星(※2)のうち準衛星は数個しかないめずらしい存在ですが、Kamoʻoalewaはその中でも注目を集めています。まず、望遠鏡による観測結果から、Kamoʻoalewaの表面を構成する物質が他の小惑星とは似ておらず、むしろ月の物質に類似しているという結果が得られました。このことは、月の表面に別の天体が衝突して飛び出した破片の1つがKamoʻoalewaである可能性を示唆しています。 ※2…公式な定義としては、近日点距離(太陽に最も近づく距離)が1.3au(約2億km)未満の公転軌道を持つ小惑星のこと。より口語的には、地球の公転軌道に接近または交差する公転軌道を持つ小惑星のこと。 また、Kamoʻoalewaは準衛星である期間とそれ以外の期間を何回か繰り返していると推定されています。現在のKamoʻoalewaは準衛星の期間にいますが、その長さは約300年であり、これは約3800年間安定とされている「2023 FW13」に次いで2番目に長寿命です。他の準衛星がせいぜい数十年しか続かないことを考えると、その安定性はかなり高いと言えます。さらに、Kamoʻoalewaは発見直後から安定的な準衛星だと判明した一方で、2023 FW13が安定的な準衛星だと判明したのは発見から10年以上経った2023年のことであり、研究の長さにも差があります。 ただし、Kamoʻoalewaが月の破片だとする仮説には賛否両論がありました。否定的な意見の背景には、月を飛び出したという過去と、現在は準衛星であることとの矛盾があります。小惑星が準衛星となるには、月や地球に対する相対速度がかなり遅くなければなりません。これに対して、月から飛び出した破片が月の重力を振り切るには、月に対する大きな相対速度が必要となるため、お互いに矛盾しているように見えます。 このような矛盾について、確率こそ低いものの、月から飛び出した破片がKamoʻoalewaのような準衛星軌道に到達する可能性を示した研究が2023年に提出されていました。