準衛星「カモオアレワ」を生み出したクレーターを特定? 月起源説を後押し
■起源となった衝突クレーターはジョルダーノ・ブルーノか
Jiao氏らの研究チームは、Kamoʻoalewaのような破片が月から飛び出すにはどのような天体衝突を仮定すればよいのかを数値シミュレーションで解析し、その結果と一致するクレーターが月に存在するかどうかの特定作業を行いました。なお、この研究はアリゾナ大学が所管する月惑星研究所が主導しています。月惑星研究所は今回の研究の前提となる2つの論文でも主導的役割を果たしています。 Kamoʻoalewaの直径は40~100mであると推定されているため、天体衝突もそれなりに大きな規模となります。Jiao氏らはシミュレーションを重ねることで、月に衝突した天体の大きさは少なくとも直径1kmあり、衝突によって直径10~20kmのクレーターが生じたと推定しました。後にKamoʻoalewaとなる破片は、衝突の衝撃で月の表面の地下深くから飛び出すと推定しました。 また、時々準衛星となるKamoʻoalewaの現在の公転軌道の寿命は0.1~1億年と、他の地球近傍小惑星と比べても短いと推定されています。従って、Kamoʻoalewaを生み出した天体衝突が起こったのは数百万年前という、天文学的に見てかなり最近の出来事だったと予想されます。
Jiao氏らは、このような条件に合致するクレーターは1つしかないと考えています。それは、地球から見て月のほぼ東縁にある「ジョルダーノ・ブルーノ」クレーターです。ジョルダーノ・ブルーノは直径が約22kmあり、JAXA(宇宙航空研究開発機構)が打ち上げた月周回衛星「かぐや」の観測結果によれば、その形成年代は100~1000万年前であると推定されています(※3)。 ※3…古い記録によれば、1178年6月18日に「月から炎が噴き出した」とするカンタベリーの修道士による記録があり、これがジョルダーノ・ブルーノを作った衝突であるという説もあります。しかし、これほどの規模の衝突は地球にも月の破片による流星群をもたらすと考えられますが、そのような記録はありません。かぐやによる観測結果も合わせると、ジョルダーノ・ブルーノが西暦1178年に形成されたとする説は否定的です。 今回の研究で示された、これほどの直径と若さを持つクレーターはジョルダーノ・ブルーノしかないため、Jiao氏らはKamoʻoalewaの起源がジョルダーノ・ブルーノである可能性がとても高いと推定しています。 Kamoʻoalewaの起源を月に求める研究は、他の地球近傍小惑星の起源にも影響を与えそうです。従来、地球近傍小惑星は火星と木星の間にある小惑星帯が起源であり、惑星の重力によって公転軌道が変化したものではないかと考えられてきました。しかし、Kamoʻoalewaに関する一連の研究は、地球近傍小惑星の中には月を起源とする天体が相当数含まれている可能性を示唆しています。 今回のシミュレーションでは、衝突によって生じた直径10m程度の小さな破片が数万個、月から飛び出して太陽を公転するようになると推定されました。大部分は100万年未満という天文学的には一瞬のスケールで再び月に衝突したと考えられていますが、その一部はKamoʻoalewaのように長期間安定した公転軌道を維持すると考えられます。今回の研究が正しければ、小さな地球近傍小惑星のうち、月を起源としているものの割合はもっと多いかもしれません。