アレックス・ガーランド監督、『シビル・ウォー』来日プレミアで解説「映画の設定は思考実験」「国を守るため、生活を守るためにジャーナリズムは必要」
A24史上最大規模&2週連続全米1位を獲得した映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』(10月4日公開)の監督来日プレミアが8月25日、丸の内ピカデリーにて開催され、アレックス・ガーランド監督が登壇。ドルビーシネマで本作を鑑賞した観客に本作の制作経緯などを語った。 【写真を見る】映画の設定は「思考実験」。着想から撮影時の様子まで細かく丁寧に解説したアレックス・ガーランド監督 舞台は、内戦が勃発し、戦場と化した近未来のアメリカ。最前線を取材すべく立ち上がった4人のジャーナリストが、14か月の間一度も取材を受けていない大統領へインタビューを行うべく、ニューヨークからホワイトハウスを目指して旅に出る。彼らは戦場と化した道を進むなかで、内線の恐怖と狂気を目の当たりにしていく。出演はキルステン・ダンスト、ワグネル・モウラ、スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソン、ケイリー・スピーニーら。 MCを務めた映画評論家の町山智浩から、日本との出会いを尋ねられたガーランド監督。日本が大好きで、出会いは1980年代までに遡ると切り出し、「最初に触れたのは『AKIRA』。なじみのある世界でありながら、微妙に異なるような世界を感じました。既視感はあるけれど、ちょっと違うような世界観。そんな日本を観てからずっと惹かれています」とお気に入りの国、日本への想いを語った。 映画のアイデアは自身の空想から出ているものではないとし、「いま、世界で繰り広げられていることをそのまま反映しているつもり」とコメント。世界中で“分断”の傾向が見てとれるとし「映画で描かれていることが本当に起きているかどうかではなく、いつどこで止まるのかということを描いています。近未来でフィクションのような部分もあるけれど、50%は現実かなと思います」と解説した。 保守的なテキサス州とリベラルなカリフォルニア州の同盟「西部勢力」と政府軍との間で内戦が勃発するという設定については「思考実験」と明かし、「これは問いかけです。2つの州が手を組むことがそんなに想像し難いことですか、と。もし、この設定を“ありえないこと”と思うなら、それはなぜ?ということを考えてほしい。右対左の抗争が、ファシズムに抗うことよりも重要なことなのか。自分自身が真っ先に抱く疑問、という気持ちから作りました」と設定が生まれた経緯に触れた。 主人公たちをジャーナリストにした理由については、「いまの時代の一つの特徴としてジャーナリストが敵視しされがち。腐敗した政治家がジャーナリズム、ジャーナリストを矮小化している。これは世界中で起きていること。例えば、ジャーナリストがデモを取材しようとすると、唾をかけられたり、肉体的なものや言葉の暴力を受ける。こういう状況は狂気の沙汰。国を守るため、生活を守るためにジャーナリズムは必要。いろいろな政治家がジャーナリストを悪者に仕立て上げているけれど、自分は彼らをヒーローとして描きたかったんです」と解説。 若いジャーナリストがフィルムカメラを使い、年長のジャーナリストがデジタルカメラを使うという描き方については「対比を描きたかったというのが一つ。あとは1960年代、70年代のスタイルを描きたかったんです。目の前で繰り広げられていることをそのままリポートする、あのころのジャーナリストを描いています。いま、ニュースを報じることよりも広告収入に重きが置かれがち。プロパガンダに成り下がっている、ジャーナリズムを放棄している様も描きたかった」と丁寧に説明した。 アクションシーンがリアルに見えることについては、「登場する兵士を演じる俳優には、リアルに従事した米兵がいるから。戦場のようなやりとりがリアルにできるんです。撮影していておもしろかったし、撮影しやすいシーンでした」と充実感を滲ませ、「オーバルオフィス(アメリカ大統領の執務室)に向かうシーンでは3人のネイビーシールズ(アメリカ海軍の特殊部隊)がいます。言葉づかいも含めて、いつも通りにやってもらいました。ドキュメンタリーを撮っているような感覚でした」と話したガーランド監督。このシーンの撮影が次回作への着想点になったとも明かしていた。 “音”にもリアルにこだわった演出をしている。それは役者が音に驚くリアルな演技にもつながった。「5マイル、10マイル離れたところでも音が聞こえてくるような爆音のなかで撮影しました。VFXで済ませるのではなく、実弾、もちろん空砲だけど、それを何千発もリアルに撃ちました。爆発のなかで撮影するので、俳優たちはビクッとするし、マズルフラッシュ(発射火薬が銃口付近で燃焼することにより発生する閃光)が出るから、俳優の顔に反射したりもするし、演技にも反映する。そういうリアリティを心がけていました」とのこと。普通の空砲よりも火薬を増やして撮影するほどのこだわりだったそうだ。 映画を通して伝えたいことは「トランプを選出するな、トランプに投票するな、です」と自身の想いを述べ、本作を観ていない人へのメッセージを求められると「映画館向けに作った作品なので、映画館で楽しんでください」と呼びかけ、大きな拍手に包まれながらステージを後にした。 取材・文/タナカシノブ