迫るシマの〝消滅〟 再建に立ちはだかるインフラの壁 瀬戸内町・加計呂麻島
条件不利地域の加計呂麻島阿多地集落(シマ)における将来的な再建のためには、生活を支える三大インフラの一つ、「水道」も大きな壁となって立ちはだかる。 簡易水道が整備されていない阿多地では集落管理水道で賄われてきた。水源からポンプで水をくみ上げ、砂をためたろ過槽に通して不純物を取り除く仕組みで、定期的に砂を取り出して洗浄する必要がある上、取水口に堆積する砂利や落ち葉を取り除く作業は必須。阿多地はもとより、高齢化が進み、住民が減少する近隣集落でも維持管理が大きな負担となっている。 さらに、阿多地では水源地から集落に配水する管が老朽化で破損し、水がほとんど使えない状況。瀬戸内町の水道課が数回調査に入ったものの配管図等がなく、水漏れ箇所の特定には至らなかったという。 嘱託員の村田満弘さん(66)も重機を借り、自費で破損箇所を探したそうだが、空振り。「(供給の状況把握のため)役場から試してほしいと言われ集落水道を5日間稼働したが、平均的にみて、4トンタンクは一日2時間ほどでなくなる。電気量は30キロワットで一カ月の電気料は5、6千円の概算。到底住める状況にない」と嘆く。 その他にも、共同アンテナの線が切れて地上波放送は見れず、道路整備も年1回あるかないかなど、まさに〝弱り目にたたり目〟の状態。「優先順位からすれば住む人がいない、少ない地域が後回しになったり、お金が出なかったりという行政の言い分も理解できるが、悪循環では集落は朽ちる」と村田さん。 阿多地の常住人口ゼロの問題は、同町6月定例議会一般質問でも取り上げられた。集落再生の方針について、鎌田愛人町長は「集落居住者や集落郷友会らの意向を基に施策を検討する。町全体の問題として考えていきたい」と答弁。 また、3月末時点で町内56集落のうち人口9人以下の地域が8集落に及ぶことに関し、議員から「個人の土地や建物などを地縁団体等で集約し、サウンディング調査から住民意向を尊重した集落再興、在り方についての意見交換なども検討材料の一つ。他地域の協力を仰ぐなど戦略的に進めてほしい」との提案があった。 現在、定期的に阿多地へ帰省するのは大阪府に住む40代の1世帯のみ。村田さんは「今シマのために動けるのは、私が2世で、郷土愛があるから。シマで育っていない3世の人たちが継いでくれるかは難しい話」と前置きし、「重要なのは人口推計の増減ではなく定着数。Iターン者の新しい風も大切だが、シマ文化を守れる人材の確保が集落存続には不可欠であり、今の阿多地には与えられるだけでなく、自ら考え、行動できる人が必要だ」と言う。 村田さんは今、阿多地への居住を実現するためにガソリンスタンドに勤務したり、バスの運転手を務めたり、副業で水道整備のための金策に奔走する日々。「住めるようになったら、土地や建物の持ち主に連絡を取るなどして、持続的な管理方法を考えながら集落を維持したい」と話し、「伸びるところには『何か』があって、阿多地はその資源、素質は十二分すぎるぐらいある」と前を向く。 「人は人とのつながりがないと生きてはいけない。集落の最後も人と人」―との村田さんの言葉が響く。
奄美の南海日日新聞