親の介護どうしたらいい? メイプル超合金・安藤なつさんに介護のコツを聞いてみた
人生100年時代。将来直面するであろう親の介護について、漠然とした不安を感じている人も多いのではないでしょうか?「うちの親はまだまだ元気だから」と、つい考えるのを後回しにしてしまいがちだけど、介護は突然やってくるもの。そのときが来ても慌てないために、今から備えておきたいですよね。とはいえ、何から始めればいいかわからず、かくいう筆者も未だ全くの手付かず状態です…。そんな折、お笑い芸人で介護福祉士の資格も持つ安藤なつさんによる、介護について考えるトークショーがあるという情報を入手。早速お邪魔して、介護に関する心得についてうかがってきました。 【画像を見る】家族が認知症になったら。介護する孫の過酷な実情(166枚) ■「介護のために仕事を辞めることがないように」 小学1年のときに、親戚が運営する施設で介護に出会い、その後ボランティアも含め介護職に約20年携わってきた安藤さん。ヘルパー2級(介護職員初任者研修)の資格に加え、昨年には介護福祉士の資格も取得した介護のプロでもあります。本イベントは、そんな安藤さんの著書「知っトク介護 弱った親と自分を守るお金とおトクなサービス超入門 第2版」(KADOKAWA)の出版を記念したトークショー。共著した介護・暮らしジャーナリストの太田差惠子さんと共に登壇され、介護についての認識を深めるトークを展開しました。 その中で、2人がもっとも強調していたのは、「第三者の力を借りなさい」ということ。親の介護のために離職する人も少なくありませんが、太田さんは「それだと子どもの生活設計が成り立たず、自分の老後のお金がなくなる」と指摘。親も子どもも105歳まで生きると想定して、持続可能な介護プランをつくることを推奨していました。 安藤さんも「仕事を辞めなくても済むように介護士はいる」と同意。夜勤の在宅介護で1日20軒前後のお宅をまわり、排泄介助、おむつ交換、安否確認などを行っていた経験を語り、「それも全てご家族の睡眠の確保のため。遠慮せずに頼って欲しい」と、介護サービスの積極的な利用を呼び掛けました。 ■「介護保険料を支払っているんだからうまく利用して」 介護サービスは高額なイメージがあり、金銭的な面での不安も大きかったりしますが、「そのために介護保険制度がある」と太田さん。介護保険とは、医療保険と同じように、介護に関わるサービスを1割負担(高所得の人は2~3割)で受けることができるもの。40歳以上の人は全員、介護保険料を納付しているため、利用する権利があるとのことです。 「介護保険料なんて払ってたっけ?」と思う人もいるかもしれませんが、実は40歳から健康保険料に上乗せして、65歳からは年金から天引きという形で自動的に徴収されているのだそう。しかもその支払いは一生涯続くというから、恐ろしい…。「みなさん介護保険料を払っているのですから、サービスの利用を遠慮する必要はありませんよ」(安藤さん) ■「親子間で話がこじれそうなら第三者を入れて」 プロに介護をお願いしたいと思っても、どうやって親に話を切り出せばいいかと悩んでしまうもの。「そんなときは伝聞形式がおすすめ」と安藤さん。「親子の関係性にもよりますが、義両親などで言いにくい場合は、『こんな話聞いたんだけど…』という感じで、自分の意見じゃないですよ感を出すのが手。あとは『このサービスを使うとポイント溜まるよ』みたいな軽いノリで話してみるのもいいかもしれません」 それでも「介護なんて必要ない!」と拒否する親には、「かかりつけ医などお医者さんから言ってもらうのがおすすめ」と太田さん。実際、子どもから言われるのが一番嫌なようで、第三者から言われたら聞くというケースも多いとのこと。家族には特有な距離感があるので、客観的な第三者、特に医者などのプロの視点で語ってもらったほうが、素直に受け入れられるのかもしれませんね。 ■「介護は絶対やらなきゃいけないもんじゃない!」 親子といえども、家庭によってその関係性はさまざま。根深い感情のもつれなどで「親の介護なんてしたくない」と思うなら、やらないという選択肢もあるそう。「介護は扶養義務とは全くの別物。子どもには、経済的に余裕があれば親の援助をするという扶養義務はありますが、介護義務というのはありません」(太田さん)。 また、高齢者施設へ入れることに罪悪感を抱く人も少なくないけど、両者とも声を合わせて「その必要は全くない!」とキッパリ。「遠距離介護だと何かあってもすぐに駆け付けられないし、認知症などがあって日常生活に危険が及ぶ場合は、施設で安全に生活できたほうがいい。施設って私は結構良いところだと思いますよ」(安藤さん)。 要は、感情的にも物理的にも、できることとできないことがあるため、「介護では自分がどこまでやりたいのかを明確にすることがもっとも大事」と太田さん。安藤さんも「絶対やらなきゃいけないものはない。例えば排泄介助がどうしても苦手だったら、プロに任せればいい。介護士は、楽しくやりがいのある仕事というプライドを持ってやっているし、そのための介護士」と、無理のない範囲での介護を強調していました。 ■「これだけは覚えておいて!困ったときに頼れる2つの場所」 いざ、介護が必要となったら、「まずは地域包括支援センターに相談して」と太田さん。地域包括支援センターとは、介護の相談や申請はもちろん、部屋の片づけができなくなってきたなど、ちょっとした不安から相談にのってくれる場所。しかも相談料は無料というから、かなり助かりますよね。また、介護は入院から始まることも多いため、病院内の医療ソーシャルワーカーに相談するのもいいそう。 地域包括支援センターと医療ソーシャルワーカー。馴染みの薄い言葉だけど、「最低限この2つだけは覚えておくといい」とのこと。「何か困ったことがあったら、とりあえずこの2つに相談すれば、必ずどこかに繋がります。どこかに誰か助けてくれる窓口は必ずあるということを忘れないで」(太田さん)。 突然やってくる介護に、準備万端で臨める人なんてまずいないもの。自分だけでがんばろうとせず、手を差し伸べてくれるプロの手を積極的に借りるのが、介護をスムーズにスタートさせるコツかもしれませんね。 *** 介護の楽しさを「できなかったことができたとき、ミッションクリアみたいな達成感が得られるところ」と語ってくれた安藤さん。辛い、苦しい、大変、というイメージが強い介護だけど、楽しさも見つけられるといいですよね。ただ「気持ちに余裕を持つためには、やはりがんばり過ぎないことが大事」とも。体の負担が減ることで、気持ちの余裕も出てくることから、家族だからやらないといけないという考えは捨て、プロの手を借りての介護を推奨していました。がんばり過ぎて、介護する側が倒れたら、それこそ本末転倒。「やらねば」じゃなくて、自分がやりたいこと、できることを、まずは整理することから始めてみようと思いました。 安藤なつ お笑いコンビ「メイプル超合金」として、2015年M-1グランプリのファイナリストに。バラエティを中心に女優としても活躍中。介護職に携わっていた年数はボランティアも含めると約20年。ヘルパー2級(介護職員初任者研修)、介護福祉士の資格も持つ。 太田差惠子 介護・暮らしジャーナリスト。1993年頃より老親介護の現場を取材。「遠距離介護」「高齢者施設」「仕事と介護の両立」をテーマに執筆や講演を行っている。AFP(日本FP協会認定)資格を持ち、「介護とお金」にも詳しい。介護関係の著書多数。 撮影:FUMIKO TAGAMI 文:酒詰明子