スズキ、60歳時の給与維持 人事制度刷新 意欲引き出し後進指導役も期待
スズキは本年度刷新した人事制度改革の一環で、60歳の定年を過ぎた再雇用社員の業務や給与を現役時点と同様に維持する制度を導入した。対象は60歳から65歳までの約1200人で、「年齢にかかわらず、挑戦と行動を促す」(人材開発本部)としている。待遇改善で労働意欲を引き続き高めてもらうとともに、人口減少下の人手不足への対応や、知見を生かした現役社員の指導にも期待する。 新制度では、体力や環境に問題がなければ、業務は正社員と同じにし、異動や駐在、出向の可能性もある。役職は解くが、60歳時点の基本給をベースとし、フルタイム以外にも、日数や時間短縮など働き方に応じた報酬となる。 同社は日本のほか、新工場稼働や建設を予定するインドなど海外拠点を有する。一例として海外工場で生産ラインの設計・管理を行う生産技術や、組み立て現場の指導に関わるなど、専門性を発揮し後進育成に注力してもらう。 スズキによると、60歳以上の従業員は約6%で、多くが就労継続の意向を持つ。一方で、報酬は年収ベースで現役時の3分の2以下に下がり、仕事への「区切り感」や意欲低下の課題もあった。 国は、2021年施行の改正高年齢者雇用安定法で、70歳までの就業機会確保を企業の努力義務とするなど、シニア社員を取り巻く環境は変化している。スズキは定年延長も検討している。 ■個の成長と稼ぐ力 重点 30年度に向け「戦略」実現 スズキは、連結売上高7兆円達成や電動化などを推し進める「2030年度に向けた成長戦略」の実現に向けて、「個の成長と稼ぐ力」に重点を置いた人事制度改革に本腰を入れている。1990年代後半以来、約30年ぶりに変更した項目もあるという。業績と能力を明確に分けた評価導入や、今後を担う新入社員の初任給も大幅に引き上げた。 従来制度は、社員の業績と能力を一体的に評価していた。プロジェクト達成度など短期的な業績成果の比重が高くなりがちで、「長期的な能力成長との乖離(かいり)があった」という。今回は取り組み姿勢やビジョン、専門性など会社が求める具体的な能力評価の要素を一覧で示し、フィードバックも徹底する。 人口減少で獲得競争が激しくなる中、定着促進を目指す新入社員の初任給は大卒で約14%引き上げたほか、一般社員の賃上げや諸手当も充実させた。 同社は長年、社長・会長として2021年6月まで会社を率いた鈴木修相談役が適材適所の人材配置を行ってきたが、その後、鈴木俊宏社長を中心に本格的な制度改革の議論に着手した。インドなど外国人材登用も増える中で、加藤祐輔常務役員人材開発本部長は「会社の持続的成長を見据え、国籍問わず、多様な人材に活躍してもらう」と強調した。
静岡新聞社