【スクープ告白】確実に心臓が止まる量も…!元バイヤーが明かす「処方薬の横流しビジネス」危険な実態
「睡眠薬の『ラボナ』の致死量は20錠が目安。それでも顧客は『在庫にある200錠をすべて欲しい』とせがむ。これはほぼ確実に心臓が止まる量です。用途を訊くと『自殺したいから』という。当時はそんな注文ばかりが来ていました」 【写真をみる】薬品名がズラリ! 「お薬もぐもぐ」で検索すると衝撃の投稿が…! 2月下旬、東京都内で取材に応じたA氏(30代)はそう振り返る。 現在、若者を中心に急速な広がりを見せているのが薬物の過剰摂取、OD(オーバードーズ)だ。昨年から新宿・歌舞伎町のトー横では咳(せき)止め市販薬の『ブロン』と酒を飲み合わせ酩酊状態を味わう危険な遊びが流行。これによって救急搬送されるケースが相次ぎ、警視庁が一斉摘発に乗り出す事態に発展している。 しかし、それ以上に危険視されているのが処方薬によるODだ。SNSでは″お薬もぐもぐ″のハッシュタグと共に処方薬の密売が横行。A氏も数年前からバイヤーとして売買に手を染めてきた。 「処方薬のODは″お薬もぐもぐ界隈″と呼ばれています。当時は自分も処方薬をOD目的で常用していて、とにかくカネが欲しかった。薬の知識はあったし、処方薬は確実に儲かると思い、Xにアカウントを作成して売買を始めました」 アカウント開設後から注文は止まらず、数ヵ月で顧客は300人を超えた。 「売買方法としては、まず薬のリストを″お薬もぐもぐ″など専用のスラング付きで投稿して客を募る。DMが来ればテレグラムに誘導して、数量や料金など詳細のやり取りをします。支払いは銀行振り込みかペイペイのどちらか。入金を確認したら注文を受けた薬をレターパックに入れて指定の住所に送る。それで売買成立です。OD目的で買う人が一番多かったですね。自殺志願者も一定数いましたが、劇薬になればなるほど販売数は制限するようにしていました」 そもそも、処方薬は医師の処方箋がないと入手ができない。A氏はいかにして処方薬を手に入れていたのか。 「最初は一日に複数のクリニックを受診して入手していましたが、次第に在庫が追いつかなくなり、SNS上で睡眠薬の『サイレース』や『イソミタール』などの買い取りを行うようになりました。売り手の中には、一般人は触れることもできない箱ごとの買い取りを求める人もいました。どう考えても医療従事者です」 最盛期の顧客数は900人を超え、収入は月500万円以上にのぼっていたという。この当時「罪悪感はなかった」と語るA氏だが、ある日を境にバイヤーから足を洗うこととなる。 「私生活で不幸が続き、死のうと思って在庫として保管していたラボナを30錠ほど一気に飲んでしまったんです。たまたま知り合いに発見され、救急搬送されました。病院で運良く蘇生した時に『自分はなんという薬を売っていたんだ』と気づきました。 私は処方薬のバイヤーとして、人が死ぬ機会を提供していたんです。自分が死にかけないとそれに気づけなかったのは情けない限りですが、とにかくこの危険な実態を知らせたいと思い、今回取材を受けることにしました」 今年に入り、医薬品の違法販売による逮捕事案が急増。無許可での医薬品販売は薬機法違反に該当し、3年以下の懲役か300万円以下の罰金、またはその両方が科される。警視庁も本格的な捜査に着手するなか、A氏は処方薬売買の危険性を改めてこう訴えた。 「SNSでは毎日のように大量の処方薬が売買され、それを使用してODや自殺未遂をした人が救急搬送されている。一刻も早く厳罰化しないと、状況は悪化の一途を辿(たど)るだけです。人が簡単に死んでしまう″毒薬″が平然と売られている現状はあまりにも危険すぎます」 人が簡単に死ぬ毒薬。A氏がそう警告する処方薬の違法売買に、絶対に関与してはいけない。 『FRIDAY』2024年3月22日号より 取材・文:土岡 章(ノンフィクションライター)
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