ヤンマガも始動…ここにきて漫画編集部の「YouTubeチャンネル」が賑わいを見せているワケ
ヒットを生むためには「相性」が重要
作家と編集者・編集部は「相性」が重要である。 どんなに優秀なマンガ家と優秀な編集者であっても、ウマが合わない人間同士、めざすべき方向性が食い違っているとなかなか良い作品、ヒットは生まれない。 作家に対して編集者・編集部サイドの情報が開示されていればいるほど、お互いに事前情報がないまま作家が作品の持ち込みや新人賞への投稿をするよりも、マッチングの精度が上がる。お互いにとってロスが少なくて済む。 編集者の採用も同様で、たとえ能力があっても気質が合わないと同じ編集部内でうまくやっていくのは難しい。受ける前に「ここは合いそう/合わなそう」とわかるほうが募集側にも受ける側にも良いに決まっている。 「50誌500人の編集者と出逢えるマンガ投稿サイト」を謳ったDAYS NEOでは各マンガ編集部の編集者のプロフィールが開示され、書いたコメントも閲覧できる。だがそれでもまだまだ作家側からは見えていなかった「編集者・編集部側の自己開示」、これまでの担当作品リストだけでなく、「この人と人間として付き合えそうだと思うか」「仕事してみたいと思うか」「ここで描きたいと思うか」の解像度がウラ漫ではぐっと高まっていることが重要だ。
動画がストックされるメリット
これまではソーシャルメディア、とくにX上でマンガ編集者がキャラを立てて発信することがよく行われてきたが、Xは仕様上、情報がどんどん流れていってしまう「フロー」のメディアだ。また、基本的には「文字と画像」中心であり、具体的に打ち合わせでどんなふうに作家と編集者がやりとりしているのかまでは見えなかった。 対してYouTubeは「動画」が「ストック」されていく。あとからでも参照しやすく、また、レコメンドによってマンガ制作に興味のある人であれば古い動画でも発見されやすいという利点がある。 YouTubeチャンネル運営は、動画制作のためのコストや現場にかかる負担は小さくない。作家や編集者によっては外見や仕事場、生活模様をさらすことによって身の危険が高まるリスクもある。また、まだ実績の少ない新興編集部・企業ではやったところでそもそも閲覧されにくいから、それほど効果は期待できない。だから、このような試みがどこまで広がるかはわからない。 ただ現環境下で、特定の編集部が、マンガに興味のある作家や編集者を惹きつける方法論がひとつ確立されたことはたしかだ。
飯田 一史(ライター)