『マウンテンドクター』は命の尊さを伝える一作に 杉野遥亮がふたたび山を目指す理由
繰り返される「なぜ山に登るのか」という問いかけ
山の怖さは強調してもしすぎることはない。平地と異なる環境下で、天候が急変し、夏でも死亡事故が起こるのが山だ。GPSを搭載した地図アプリの普及もあって、それぞれのスタイルで山を楽しむ人が増えた。そのような状況下で、ピークシーズンに向けて『マウンテンドクター』は万全の準備を呼びかけている。軽装の若者たちを叱る江森の「山をなめてるからこういう目に遭うんだ」「死んだって誰も同情しないぞ」は、山で危険な目に遭った経験のある人なら同意できるに違いない。 それと同時に、本作は何度も繰り返された問いに光を当てる。心臓の疾患を抱える宇田(螢雪次朗)は江森の外来に通っていた。趣味の山登りを止められている宇田に歩は15年ぶりの登山を許可する。しかし、登山中に宇田は倒れてしまう……。 歩が発した「登山をやめさせることが本当に救うことになるのか」は、「なぜ山に登るのか」という問いと裏表の関係にある。「山は人を殺す怖いところ」であると同時に「人を笑顔にさせる素晴らしいところ」でもある。ただし、それだけでは答えになっていない。宇野にとって山は亡き妻との約束の場所であり、山に登ることが人生の目標になった。兄を失った歩は、翔のために生きようとした自分と向き合うことでふたたび山に戻ってきた。 「山の景色は変わらない」という台詞が第1話であった。変わらないように見える山は、実は常に激しい変化にさらされているのだが、自らその場所に飛び込む主人公を映す『マウンテンドクター』は自然と人間の共生を通じて、命の尊さを伝える一作となりそうだ。
石河コウヘイ