「あれが今の僕の限界」敗戦後は熱くなる久保建英の“淡白対応”に見えた「森保ジャパンの深刻な課題」
優勝を期待された日本代表がベスト8でイラン代表に敗れたAFCアジアカップ。日本時間11日0時には開催国・カタールとヨルダンが決勝で激突する。 「性加害疑惑」のサッカー伊東純也…代理人弁護士が「告発女性の“ジャージ動画”を公表」の意外なワケ 優勝候補の筆頭であることを自他共に認め「優勝あるのみ」と宣言し続けてきた日本代表は、淡々とした熱のこもらない戦いぶりだった。決勝トーナメントの組み合わせから、決勝で日韓戦が実現する可能性もあったのだが、その韓国も日本より一つ上の準決勝でヨルダンに敗退。だが韓国の戦いぶりには、冨安健洋が日本に欠けていると指摘した「勝負への執着」があり、時に荒々しくも感情を全面に出す熱さがあった。そんな韓国戦を見ていると逆に、日本の淡白さが浮き彫りになった。 イラン戦直後、日本サッカー協会の田嶋幸三サッカー会長は森保一監督の続投を明言したものの、選手からはどこか冷ややかなコメントが聞こえてきたのは、このチームの現状を示していた。 フル出場はなかったものの、初戦ベトナム戦を除き4戦連続で先発出場し、チームの中核としての活躍が期待された久保建英も淡々としたものだった。いつも比較的早口の久保だが、イラン戦後は極めて早口になった。 「もっとやれたかなと思いますし、苦しい時間帯でもっとできたかと思います。けど、大会通してあれが今の僕の限界かなと思います。できることはやったので、特に僕からなんか反省すべきこととかはないです」 久保自身はこれまでのどの大会よりも、能力を発揮し今後への可能性を感じさせた。だが、敗れたイラン戦直後、どこか消化不良でありながら、半ば諦めているような、それでいてサバサバした表情を見せた。 振り返れば久保は一昨年12月、カタールワールドカップでベスト16でクロアチアに敗れた試合は、直前の急な発熱により、ホテルでの観戦を余儀なくされた。だが試合翌日、まだ鼻声の久保は清々しいほど正直に自身の不甲斐なさに触れつつ「パリ五輪を目指したい」と切り替えて見せた。 さらにさかのぼると、’21年夏、東京五輪の3位決定戦でスペインに敗れ、メダルを逃した際は、ピッチ上で普段の様子からは想像がつかないほど激しく泣き崩れていた。そんな過去の敗戦直後の様子と今回はどこか違った。 敗れた直後の久保は、あれをああすればよかった、足りなかったのはどこか、こんな点を今後は強化していきたい、などと感じた課題や収穫が自然と口をついて出てくることが多い。だが、このイラン戦後の久保は結果が出なかったにもかかわらず、「今の僕の限界」「反省すべきことはない」と言い切った。まるで “自分には解決できない問題があったから負けた”と言わんばかりである。 日本代表ではベンチスタートの多かった久保が、今回のように日本代表で連続して先発するのは初めてのこと。つまり久保にとっては、今後に向けて先発の座を奪い切るために重要な大会でもあった。イラン戦では1-1と追いつかれた12分後に交代を命じられたが、そのことも、どこか他人事のように振り返る。 「だんだんコンディションが上がってくる中で、この試合が(自分の)ベストな試合だったと思うので、ちょっと個人的には(交代は)早かったかなと思いますけど、そこはまあいち選手が言ってもしょうがないんで」 たしかに久保の言う通り、起用法は選手が決めるものではなく指揮官やコーチングスタッフによって決められるからいち選手がどうにかできるものでもない。それでも「言ってもしょうがない」ではなくて、もう少しチームや自分の課題なり、使われ方に興味を持って振り返ってもよかったはずだ。 「ここからまた(W杯)予選も続いていくし、切り替えるしかない。チームに帰って重要な試合が続くので、代表のことはいったん忘れようかなと。まずは今日も(所属チームで)試合があるのでチェックして。次の試合ではメンバーに入ると思うので」 久保はスペインに戻ると、イラン戦後中2日で所属クラブのソシエダで国王杯のマジョルカ戦にフル出場。敗戦をいつまでも引きずるわけにはいかないのだが、代表戦に敗れた直後に「忘れようと思う」は敗戦後に熱さを表に出す久保とは明らかに違った。 結局、いち選手としては不可抗力のことが多すぎて、もうどうにもならないということだったのではないか。久保自身は大会を通して具体的に誰かを批判することや提言することはしなかったが、イラン戦で先制ゴールをあげたMF守田英正は「もっといろいろ提示してほしい」と具体的な指示とチーム作りの精度をベンチに求めた。 JFAの公式YouTubeチャンネルで公開されているイラン戦裏側の様子を見ると、ハーフタイムに久保建英が冨安、遠藤航らと意見交換し守備面の修正を図り、一方で森保監督はチームの士気を高めるにとどまっている。このあたりを見るに、アジアでベスト8止まりにもかかわらず久保が「自分はやり切ったのだから」と割り切らざるを得ない難しい状況がチーム内のそこここにあるのだろう。 たしかに田嶋会長は森保監督続投を明言した。続投するにしても、今一度戦いを検証していく必要があるということを久保ら選手の言葉からは感じざるを得ない。あとで振り返った時に、あの敗戦があったからこそ成長できたと思えるように。まずは、検証からスタートする必要がありそうだ。 取材・文:了戒美子 1975年、埼玉県生まれ。日本女子大学文学部史学科卒。01年よりサッカーの取材を開始し、03年ワールドユース(現・U-20W杯)UAE大会取材をきっかけにライターに転身。サッカーW杯4大会、夏季オリンピック3大会を現地取材。’11年3月11日からドイツ・デュッセルドルフ在住
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