もっと知りたい北方領土(8)返還実現の場合、周辺漁業はどう変わる?
終戦から71年経過しましたが、いまだに解決していないのが、不法占拠されたままとなっている北方領土の問題です。ことしは、平和条約締結後に歯舞群島、色丹島の引渡しを決めた1956年の「日ソ共同宣言」からちょうど60年の節目になりますが、まだ平和条約も、北方4島の返還も実現していません。そうした中、9月に行われた日露首脳会談で、12月にプーチン大統領の来日が決まり、領土交渉の進展が期待されています。 あらためて、北方領土とはどんな場所なのか、どのような自然や産業があったのか。どのような生活を送っていたのか。そして、4島をめぐる今の人々の思いなどを、紹介していきます。 第8回は、北方領土返還が実現した場合、周辺海域の漁業にどのような影響があるか考えます。
第7回では、北方領土に関わる日ロ間の漁業協定として、(1)「日ソ地先沖合漁業協定」(日ロ双方が互いの200カイリ水域(排他的経済水域)で漁ができるようにする協定)、(2)「北方4島周辺水域における日本漁船の操業枠組み協定」(北方4島周辺の12カイリ(領海)で日本の漁業者が漁をできるようにする協定)、(3)「日ロ貝殻島昆布採取協定」(歯舞群島の貝殻島付近の昆布漁を地元漁業者ができるようにする協定)、の3つを軸に紹介しました。 もし、日ロ間で平和条約が締結され、1956年日ソ共同宣言通り、日本側への歯舞群島と色丹島の2島引き渡しが実現した場合、これらの協定はどのような影響を受けるのか、そして、北方領土周辺海域での漁業はどうなるのでしょうか。
日ロ関係史が専門の新潟国際情報大学国際学部の神長英輔准教授は、2島返還の合意の中身次第で、北方4島周辺海域の漁業の取り決めである(2)「北方4島周辺水域における日本漁船の操業枠組み協定」が見直される可能性があるとの見解を示します。 「日本政府は、国後島と択捉島を継続協議にしたいと考える一方、ロシア側は、2島を引き渡してこれで終わりにしたいのでは」と神長准教授は指摘。その場合、「『歯舞群島および色丹島周辺は譲るが、択捉島と国後島はロシア領で確定したから、日本側は手を引いてもらいたい』と、言われるかもしれない」として、択捉島および国後島近海から、日本漁船が締め出される場合もありうると言います。 対して、(1)「日ソ地先沖合漁業協定」は、互いに相手の200カイリ水域で漁ができるということで双方にメリットがあるため、あまり問題にならず、(3)「日ロ貝殻島昆布採取協定」は、対象となる貝殻島は歯舞群島に含まれるため、完全に引き渡された後は意味がなくなる、と神長准教授は見ています。話を聞く限り、(1)「日ソ地先沖合漁業協定」は従来通り存続し、(3)「日ロ貝殻島昆布採取協定」は引き渡しが完了したのちに廃止される可能性があると考えられそうです。 神長准教授は択捉島・国後島周辺水域で漁ができなくなる可能性を指摘しますが、2島返還が実現すれば、合意の中身次第では、歯舞群島と色丹島が(2)「北方4島周辺水域における日本漁船の操業枠組み協定」から外れ、これら2島の周辺で漁獲できる魚種が増える、という可能性もなくはないのかもしれません。