「過度な筋トレ=寿命が縮まる」は本当? 科学的な目安は?筋トレのデメリットと対策を専門家が解説
筋肉が増えることで体が丈夫になり、怪我や病気のリスクも軽減するといわれているため、健康目的で筋トレをする人が増えている。 ▶︎すべての写真を見る しかし、東北大学・早稲田大学・九州大学の研究グループの論文では、「筋トレをしすぎると病気になるリスクが上がる」と報告されているのはご存じだろうか。
今回は研究報告を行った東北大学大学院医学系研究科の門間陽樹准教授に、筋トレにおける健康面でのデメリットと対策について伺った。
筋トレのやりすぎで動脈の壁が厚くなり病気につながる!?
ーーなぜ筋トレをやりすぎると寿命が縮むリスクが高くなるのでしょうか? 筋トレをやりすぎると動脈の壁が厚くなり、循環器関連の病気につながる可能性が考えられるためです。ある研究では、強い負荷をかける筋トレを続けた結果、動脈の壁が厚くなることが報告されています。 「長時間の筋トレ=強い負荷での筋トレ」ということではありませんが、強い負荷の筋トレを長時間実施すると血管が厚くなり、心臓や循環器官に影響がでる可能性も考えられます。 実際、筋トレがどれくらい寿命に影響しているかは正確に測れません。ですが、動脈の壁が厚くなる結果が出ていることには、注意を払っておいた方が良いでしょう。
健康目的の筋トレは、週30~60分が最適
ーーでは、週にどれくらい筋トレを行うと過剰になってしまうのでしょうか? さまざまな研究結果を集めて分析したところ、週に130~140分筋トレをする場合、まったく実施していない人と比べると差は認められなくなり、それ以上になると寿命が縮まるリスクが高くなる結果が出ました。 一方、週に130~140分までであれば死亡や病気を発症するリスクは低くなり、週30~60分の実施では最も低い値を示しました。 健康目的の筋トレは、週30~60分ほどのわずかな実施でもよい効果を期待できます。 ーーつまり、筋トレを週に130~140分するのは良くないということでしょうか? これを断言するのは難しいです。実際にそういうデータが出ていることは事実ですが、今後さらに詳細な検討が必要であることは間違いありません。 さらに、今回の結果は死亡や心臓病などの病気の予防をターゲットにした場合の結果です。 筋トレは筋肉を鍛えるために必要なトレーニングですので、身体をムキムキにしたい場合や、スポーツのために体を仕上げたい方は、週130分以上の筋トレが適している場合もあります。 筋トレは目的に合わせたトレーニング内容や時間で行ってください。 ーーちなみに、自宅でできる簡単なトレーニングでも寿命が縮まるリスクが高まるのでしょうか? 今回の研究は、これまで報告されている研究を網羅的に集めて分析したものです。世界各国からは「筋トレをしている人としていない人でグループ分けを行い、何十年も長期的に追跡した場合、死亡率がどれだけ変わるか」という研究がたくさん報告されています。 私たちは、世界各国の研究報告をまとめたら、どのような関連があるのかという調査を行いました。過去の研究では「週にどれくらい筋トレをしていますか?」というざっくりな内容しか質問していません。 器具を使ったトレーニングや自重トレーニング(スクワットや腕立て伏せ)などもまとめて評価されているため、どんな内容の筋トレが良いのか・悪いのかなどを細かく分析できないのが現状です。 ただ、筋トレの実施の有無で比べてみると、筋トレをやっている人は死亡や病気のリスクが低いことが明らかになりました。実施時間との関係も考慮すると、健康目的で筋トレを運動する場合は、週30~60分を目安に取り入れていただければ問題ないと考えています。